160人が本棚に入れています
本棚に追加
はあ、とため息をつき、夕は苛立ったように髪をぐしゃぐしゃと乱した。
何回もだ。
私達は同じことで何回もぶつかって、今みたいに口喧嘩を数え切れないくらい何回も飽きもせず繰り返している。
分かってる。きっと仕方ないことなんだろう。
自分の仕事に責任をもってる夕はえらい。
身を粉にして働いて、それで金銭を貰ってる以
上その義務があるのかもしれない。それが分かってるから、こうなった夕にはそれ以上言えなかったし、言っても意味ないと思ってた。
けど、今日は無理だ。
ザーザーと雨が降り続く。
さっきまではしっとりとした穏やかな時雨が急に激しさを増し、渾身の力で自身を地面に叩きつける。
本当に気まぐれだ。さっきまで晴れたかと思えばいきなりこの所業、でも私、それに乗っかっていい?
耐えきれなくて我慢していた言葉を、思いっきり溢れださせても構わない?
「───夕はなんのために働いてるの?」
いつもならここで、何も言わなくなる私が、突然固く緊張した声を発したので、さすがの夕もこちらを振り返る。
「お金のため?地位?権力?
それとも上司に逆らえない?頼まれると断れない?自分がやらないと気が済まない?」
「……」
「まさかやりがいとか、誇りとか、そんな安っぽいこと言わないよね?」
「……」
淡々と、言葉を紡いでいく、自分の声がここまで冷たい声音を帯びることができるのを初めて知った。
「生きるために働いてんじゃないの?」
「……」
「私は夕が朝までちゃんと眠っているのを見たことがない。作ったお昼ご飯だって時間がなくて食べれなくて夜に持ち帰ること何度もあったし、」
「……」
「帰った瞬間、玄関先で倒れることも何度もあった。高熱で、咳も出てるのに無理して出勤して、点滴を打って帰ってきたこともあった。
なんなの、本当に、」
「……」
「死にたいの?」
最初のコメントを投稿しよう!