178人が本棚に入れています
本棚に追加
「喜んでくれるかと思って」
「ちなみに聞くけどその声の主って」
「もちろん私」
「……」
「一昨日した人が、なんかごそごそしてると思ったら、声録音してたの!信じられる!?
もー、ぶん殴って警察呼んでやるって脅して、スマホ奪ってぶっ壊してやった!!」
「で、なぜそのデータが高嶺のスマホに?」
「自分のそういう時の声って気にならない?
だからこっそり送ったんだけど、演技が凄くて笑っちゃった。全然気持ちくなかったんだよね」
「……」
「なあんだ、昴くん、喜んでくれると思ったのになあ。いつも勉強教えてくれてるお礼にって。全然興奮しなかった?」
「興奮はした。だから集中できなかった」
「え?」
「強いていえば、映像が加わればなお良かった」
でもほら、と高嶺のノートを指さすと、彼女は辿る方向に目を向け、そうしてから俺を見上げ、てへっとばかりに笑みを見せる。
「今日のノルマ全然終わってない」
「バレたか〜」
「高嶺、数学苦手だっけ?」
「うん……てか理系科目がきらい」
「じゃ、明日は古典にしよ。今日はいいもの聞かせてくれたからここまでで良し」
「きゃー、やったー」
「あとさ、それ他の男に聞かせんなよ。
危ないから」
「……、」
教科書とノートを重ねて、トントンと整える。表紙の白が太陽に反射してやけに眩しいから目を細めれば、ふと、俺をしっとりした眼差しで見る高嶺と目が合った。
最初のコメントを投稿しよう!