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Snow and umbrella
「また雪かよ」
「ほんとだ」
玄関先ですぐ目に飛び込んだ、見渡す限りの雪景色に思わず息をつけば、隣から不機嫌な声が続けて聞こえてくる。
「正直もういいと思ってた。飽きた」
「今年は雪の日多いよね」
「さむ」
ぶるりと震えながら傘をさそうとする彼をぼんやりと眺めて、ある記憶を思い出した私はニヤニヤと笑みを浮かべながら彼に声をかける。
「今日は雪食べないでね?」
「……」
「また風邪ひくよ?」
茶化すように言ったその言葉に、彼は拗ねた表情を浮かべながら私にちらりと視線を向けた。
「…もう食わねーし。
やっぱ馬鹿にしてんだろ」
「してないよ〜。今日は傘もってるみたいだからいれなくてもいいよね〜」
「……行くぞ」
ブスっとしながら傘を指して、外の世界へ足を踏み出した彼を、慌てて追いかけるように傘に手をかけ、
───そのまま手を下ろした。
だんだんと雪に紛れて遠くなっていく彼の背中に声なき声をかける。
振り向け、振り向け。
ピタ。
ゆっくり歩き出していた彼の足が止まり、未だそこで佇んだままの私を振り返る。
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