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そのまま来た道を戻り、彼は少しだけ呆れたように私の声を落とした。
「どーしたんですか」
「……」
「……傘、忘れました?お嬢さん」
彼には見えてるはずだ、未だ私の手をぶらさがっている、開いてはいない傘を。
それでも視線を私だけに向けて、試すように緩やかな笑みを浮かべる。
それを見つめたまま、「…忘れました」とぽつりと嘘をついた。
「……来いよ」
そう私を誘うように傘がゆらゆら揺れて、知らず知らず体が動いていた。
「……素直じゃねえよな、ほんと」
「……うるさい」
「……今日、雪食ってないけど」
キスでもします?
ピタッと足を止め彼を見上げると、冗談だよ、あっさり笑って。
中々素直になれない私は、そうなれるタイミングを決して間違ってはいけない。
「……する」
「……」
私の言葉に彼は驚いたように目を丸くして、直ぐに目を細めたあと。
ゆっくりと頬に触れ引き寄せる私に合わせて、首を傾けてくれる。
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