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話は遡り…
出口寛子さんのお葬式の日。
わたしは、日向君が受付をしているのを見て帰ろうとしたんだけれども、
じつは帰らなかったのよ。
その場で日向君と話せる時を待ったの。
「あの、すいません」
わたしは声をかけたわ。
日向君は足を止めてこちらを見る。
「突然声かけちゃってごめんなさいね。あの、出口さんと同じ会社にお勤めですよね?私もそこで働いておりまして。あなたのこと見たことがある方だなと思いつい声を掛けてしまいました」
嘘はついてない。
「ああ!そうなんですね。どうも。日向と言います。出口さんの事は本当に突然で驚きました。とても残念です」
「ええ、本当に」
「たまたま会社で出口さんが亡くなったと話しているのを聞いて、お葬式に来ることが出来たんです」
「そうだったんですね」
それで来てくれるのも律儀ね。
「出口さんとは付き合いは長いんですか?」
「いや…、そんなに長くはないんですけれど、カレー屋で……」
カレー?
「いや…実は…僕、たまにお手伝いしているお店がありまして……。そこに、たまたま出口さんが来てくれたのをきっかけに知り合ったんです。その後、会社で顔を合わせまして、驚きました」
「すごい偶然ですね」
「そうなんです。あ、そうだ!」
日向君は、ガサゴソと鞄の中を漁り、擦り切れただいぶ年季の入った財布を取り出した。
そして、その中から、一枚の店の名刺を取り出した。
「ここでたまにお手伝いしているんですけど、もし近くに来ることありましたら、よかったら食べにきてください」
そこには、
ーーーーカレー spring dogーーーーーー
と書いてあった。
「あ、ここではたまに頼まれた時だけお手伝いしているだけですので…」
日向くんは、ちょっとバツの悪そうな顔でいった。
副業って、普通だめなのかしら。
忘れたけれど、会社では禁止だったかしら。
でも言わないから安心して。
お辞儀をして去っていく日向くんを見ながら思っていた。
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