ただ悲しくて

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「お前は覚えているか?」  全身を縄で縛られ、芋虫の様な姿になっている男に向かい、静かに言った。 「は、はぁ? 何言ってんだ、お前っ!  こ、こんな真似しやがって、イカレてんのかよっ!」  唾をまき散らしながら、縛られた男は捲し立てる。 「だいだいテメ―は何者なんだよっ!」  正体を尋ねられた男は懐に手を伸ばし、  縛られた男は刃物でも出されるのかとブルッと身を震わせた。 「や、やめろっーーーーっ!  って、ん? な、なんだよ…………なんだその写真は?」  男の懐から取り出されたのは、一枚の写真だった。  写っているのは一人の女である。 「良く見ろ」  そう言って、縛られた男の眼前に写真を突きだした。 「こ、この女は…………」  写真の女の顔を視た男には、傍から見ても明らかな動揺が見て取れる。 「覚えてはいるんだな」 「は、はぁ? し、知らねえ、そんな女っ!」  お遊戯でも、もっとましな演技をするだろう縛られた男を嘲りながら、  男の耳元で囁く。 「まぁ、そんなことは、どっちでも構わないけどな」  男の言葉に激昂し、再び唾をまき散らしてがなった。 「な、なんだとっ! だったら早く解放しろっ!  こんな真似してただで済むと思ってんのかっ!」  大きく息を吸い、呟くように言葉を口にした。 「この後、お前が辿る運命は何一つ変わらないからな」
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