31人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「君は自分がなんと言ったか覚えているかっ!!!!」
胸ぐらをつかみながら、初老の男は怒鳴った。
「…………はい」
一方で、怒鳴られる男には精気がない。
掴みかかられて、揺さぶられても、
人形のように揺らされているだけだった。
「あの時。娘を守ると、必ず幸せにすると君は言ったじゃないかっ!」
「…………はい」
顔を歪ませ、体を震わせる初老の男の目からは涙が溢れていた。
「教えてくれ。なぜ娘は死ななければならなかたったんだっ!」
「…………はい」
目の前で展開されている暴力的な出来事を止める者は誰もいなかった。
余りにも、父であるその男の怒りは正当なものだったし、
不憫だったからだ。
そして、何よりもされている本人がそれを一番に受け入れていたから。
「まして、自殺など………」
「…………はい」
目の前にいる、凡そ人らしい感情が何も感じられない男。
媚びるでもなく、言い訳をするでもなく、
まして謝罪をするでもない男に、初老の男の怒りが頂点に達した。
「何故だ? どうして娘は自殺など…………何があったんだっ!
君は傍にいたのだろう」
「…………わかりません」
「ふざけるなっ! わからないだと? そんな馬鹿な話があるかっ!!」
ゴッ!
___ズサッーー!!
殴りつけられ、地面に転がった男。
尚もその顔には人間らしい感情は見えない。
起き上がろうともしないその姿は、ただの屍の様だ。
「お父さんやり過ぎよっ!」
「も、もうやめてください」
怒りが収まらず、更に大きな暴力と怒りをぶつけ兼ねない男を、
妻と娘の二人が止めに入った。
「お、お前なぞに娘をやったばかりに………」
「…………はい」
両肩を抑えられた初老の男は涙をこぼしながら、俯いてた。
殴られ、地面に横たわる男の目からも、涙が零れた。
最初のコメントを投稿しよう!