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駅で改札を通るとき、時計を確認する。
「間に合った」
僕はひっそりと呟く。七時三十分発の急行列車に乗らなければならない。
こんな世界で電車が正確に動いているのは、本当にすごいことだと僕は思う。ライフラインを確保するために必要な仕事の従事者はある年数だけ働けば、月へ行く権利を得られるらしい。だから、就職希望者は多くて倍率が高い。高校卒業時点で権利を手に入れられなかった人々が揃って目指すのだ。
「まもなく、一番ホームに電車が到着いたします。ご注意ください」
眠そうな声でアナウンスが流れる。ホームに降りると丁度電車がきた。前から三両目の一番扉、ここから乗らなければならない。
扉が開いたその先に、一人の姿を確認する。僕と同じ藍色の制服で、胸元には赤色のリボンをつけた人。髪色は茶色がかった黒で、髪型はショートモブ。一番端の座席に座り、手に持った小説に集中している。
車内に乗り込んだ僕は、彼女の真向かいの席に座る。そして、彼女の持つのと同じシリーズの本を鞄から取り出す。
『僕らは宇宙前衛隊』
このシリーズは名前からすると、小学生中学年から中学生辺りが読者対象の本に思えるかもしれない。しかし実際には大人向けのライトノベルで、特に三十代から四十代の女性からの人気がすごいらしい。
宇宙飛行士を目指す五人の主人公たちは、とあることをきっかけに様々な宇宙の危機から地球を守る特別組織のメンバーに任命されることになる。主人公たちの年齢は二十代前半。タイトルで『僕ら』となってるのは、彼らがまだ子供を捨てきれていないことを意味していると、作者が前に言っていた。
五年前から続くシリーズだが世界が終わろうとする今、全世界の人間が読むべきだと僕は勝手に思っている。読んで何か変わるとは思えない。なぜなら現にこれを読んでいる僕だが、主人公たちみたいに勇敢に立ち向かう勇気もなければ、解決策も見つからない。それに現実は、そんなに甘くないことも分かっている。でもせめてこの本を読んで、この世界に絶望する人々に少しでも希望を見いだしてほしいと思っているのだ。
そんなことを考えながら縦に文字を追い、前に座る彼女のことも目の中にいれる。通学時の僕は忙しいのだ。
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