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「まもなく○○駅、○○駅」
電車に乗ってから約三十分経つと、学校へ徒歩で行く場合に降りるべき駅の名前が、アナウンスされた。名残惜しいが、今日はこれで彼女とお別れだ。彼女はここでは降りない。次の駅で降りて、バスに乗って通学するのだ。なぜバスを使ってるのを知ってるかというと、彼女がバスの回数券を手に握りしめて本を読んでいるからだ。
「○○駅、○○駅です」
僕は鞄の中から定期券を取り出して、電車から降りる。そして改札を出て、鞄にまたしまう。
同じ格好をした人間の波が、同じ方向へと流れていく。僕はそれに飲み込まれないように後ろの方を歩く。彼、彼女達、そして僕は駅から十五分程度歩いた先にある大阪飛翔高等学校の校舎に向かっている。
府内でもトップ5には入る大学進学率を誇るこの学校には、一類と二類の二つのコースがある。一類は大学進学を目指すコースで、成績順にAからDまでクラスがある。対して二類はスポーツや芸術に特化したコースだ。
僕は一番上のAクラス。去年の成績によりクラスが振り分けられ、二年の三学期最後の一週間は新クラスで過ごした。だから、どのクラスなのだろうかというワクワク感はない。でも担任が誰なのかは知らないし、一週間振りに皆に会えるわけだから、それなりの始業式感はある。
ちなみに先程の彼女がどこのクラスかは知らない。学校内ではあまり見かけない。同じ学校に通い、通学時に同じ電車に乗り、同じシリーズの本が好きなこと以外に、僕は彼女のことを知らない。それでも、これだけは言える。僕は本をは彼女のことを好きになってしまっている。
はじめて見かけたのは、去年の夏ごろだ。入学時からあの時間に乗っていた僕だが、彼女はその頃からあの電車に乗り始めたのだと思う。もしかしたら、今まで気づかなかっただけなのかもしれない。いずれにせよ、去年の夏ごろから僕の通学は変わった。眠気覚ましに本に没頭していた時間が、気づかれないように彼女に目線を送る時間と変わった……
「悟、おはよう」
僕の思考は一人の声かけによって遮られた。
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