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振り返るとそこには、はだの色が少し黒いギザギザ頭の岩岡雄一がいた。高校入学時から三年間、ずっと同じクラスの親友だ。
「おはよう、ゆういち」
「おまえ、また背縮んだ?」
雄一は僕の頭に手を載せて、大袈裟に驚いたような態度をとる。こんなとき、雄一は僕のことをバカにしている。
「縮んでないし。伸びたよ。十センチくらい伸びたと思うで」
僕は踵を上げて背筋を伸ばす。十センチくらいある身長差が少し縮む。
「その冗談はきついわ」
そういって僕を置いて先に歩いていく雄一。
「自分から振っといて、それはないやろ」
僕は追いかける。
駅から学校までの道は、住宅地内を通る。公立の小中学校や広めの公園、市役所などもある。無邪気に騒ぎながら登校する小学生達の声を聞くと、僕にもあんな時代があったことを思い出させられる。しかし昔の僕と、今の彼らでは決定的な違いがある。あの頃の僕は、自分がこの地球と共に朽ちる可能性があるなどと、思ってもみなかった。でも彼らは意識してようとなかろうと、そんなことが起こりうることを知っている。
「宿題ちゃんとやった?」
赤信号に足止めされたとき、雄一がきいてきた。
「さすがにやったよ。すごいでしょ」
僕は宿題というものが嫌いだ。特に最近は、何度も解いたことのある問題集を解くように言われるから余計に面倒くさい。勉強は好きだがやりたい科目や内容に時間を費やしたいし、新しい問題が解きたい。でも、こんなことを言うと『基礎が大事』だの、『同じ問題集を解いた数だけ合格率があがる』だのと、耳にタコができるほど聞かされた話を先生にまた言われる。
それに、期限を決められるのが嫌いだ。やるなら自分のやりたい時間にやりたいだけ時間を費やしてやりたい。間に合わない場合、写す人がいるが僕はあれをしたくない。だから、よく遅れるのだ。
「宿題やるのは当たり前やで」
信号が変わり、歩行を再開する。横断歩道を渡った先にコンビニがある
「今日は寄らなくていいの?」
いつも雄一はここに寄って、飲み物やパンなどを買う。昼食や間食を買うのだ。でも今日は素通りしている。
「今日はいいねん。弁当やし、三時ぐらいまで帰るから」
「残って勉強しいひんの?サボりや」
「誰がサボりなん?」
歩く僕らの横を通過していった自転車が少し先で止まった。後ろで結んだ茶色い髪を揺らしながら、自転車の持ち主はこちらを向いた。
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