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「ねぇ、覚えてる?中学生の時・・・。」
早紀はそこまで言ってハッとして周りをキョロキョロ見回した。
優美は小声で言った。
「ちょっと!早紀、気をつけなよ!」
早紀は小声で「そうだった。」と舌を出した。
「もう、私たちも高校卒業して18歳なんだから。規制の対象になるからね。」
「規制管理官がいなくて良かった~。」
私たちが恐れているのは数年前に決まった「懐古禁止法」の取り締りだ。
17歳以下は未成年として規制の対象外だが、18歳以上になると大人と同等と見なされ一気に規制対象となる。
主に3年以上昔の事を「振り返る」「懐かしむ」「調べる」といった事をしてはいけないという法律だ。
この国は数年前から独裁国家と化し、情報操作によって現在の神田首相は100パーセントという異例の支持率でこの法律を決めた。
表向きは
「過去にとらわれず未来に向かって生きるため」
という名目だが、そうではない事はみんな分っている。
きっと「過去の後ろ暗い事を隠したい」とか「歴史的に自分の政治がいけない」とかそういった事をごまかして独裁を続ける事が目的だ。
各自の持つスマートフォンやパソコンには政府からの監視ソフトが入り、常にチェック機能が作動している。町中に規制管理官という青い制服を着た人たちが住民を監視している。
3年以上前の事柄について
「あの頃は~」
「覚えてる?」
「懐かしい」
「昔は・・・」
などと言う言葉は「キラーワード」と呼ばれた。
「キラーワード」を発したら即、規制管理官がやってきて逮捕されてしまう。
最初は厳重注意。
回数が多いと罰金。
悪質な場合は「マインドコントロール」され国の管理下に置かれるらしい。
噂では「死刑よりも地獄のような日々だ」と言われている。
そんなわけで学校からは「歴史」「考古学」「古文」などの教科が消えて無くなった。
ちなみにそういった教科は禁止科目と呼ばれ、それらについて学ぶ事はより重い規制がかけられた。
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