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その人物のことは…そうだな、便宜上『夢想人』…とでも呼ぼう。
未知の感覚、未知の場所。
思考するための時間がなければ、この状況を理解するのは不可能に近いだろう。
私は今何をするのが正しいのか。
誰か、教えてはくれないだろうか。
ところでこの体、妙にしっくりくる。
幽体離脱とは違うだろうが、逃亡者は元から私だったのかもしれない。
しかし、この場所の地理がわからない。
真っ直ぐに見えるこの通りは実は緩やかに曲がっている。
時折どうやって回り込んでいるのか、夢想人の顔が遠くに見える。
がむしゃらに曲がっては進み、曲がっては進み…私は疲れを忘れて走り続けた。
屋台に吊り下げられた風鈴の音が後を引くように響く。
脳を巡る軽い音色が徐々に膨らんでいく。
苦しい。
視界の端は赤く滲む。
体が浮いた。褄付いたようだ。
地面がゆっくり近づく…はずだった。
そのまま私は地面を離れ、背中を見つめながら空へ舞い上がる。
立ち上がり、再び走っていくその後ろ姿を私は見つめていた。
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