硝子に浮かぶ花

2/2
前へ
/5ページ
次へ
その人物のことは…そうだな、便宜上『夢想人(むそうびと)』…とでも呼ぼう。 未知の感覚、未知の場所。 思考するための時間がなければ、この状況を理解するのは不可能に近いだろう。 私は今何をするのが正しいのか。 誰か、教えてはくれないだろうか。 ところでこの体、妙にしっくりくる。 幽体離脱とは違うだろうが、逃亡者(これ)は元から私だったのかもしれない。 しかし、この場所の地理がわからない。 真っ直ぐに見えるこの通りは実は緩やかに曲がっている。 時折どうやって回り込んでいるのか、夢想人の顔が遠くに見える。 がむしゃらに曲がっては進み、曲がっては進み…私は疲れを忘れて走り続けた。 屋台に吊り下げられた風鈴の音が後を引くように響く。 脳を巡る軽い音色が徐々に膨らんでいく。 苦しい。 視界の端は赤く滲む。 体が浮いた。褄付いたようだ。 地面がゆっくり近づく…はずだった。 そのまま私は地面を離れ、背中を見つめながら空へ舞い上がる。 立ち上がり、再び走っていくその後ろ姿を私は見つめていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加