愛しい愛しい花のような人と出会った @大輔

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愛しい愛しい花のような人と出会った @大輔

 入学式でオレは壇上に美しい人をみつけた。  その人はオレが入学したばかりの高校の化学のセンセーで、名前を宮古硯さんっていった。名前まで綺麗だなんて、なんか反則だ。  オレは芸能人には疎くて知らなかったんだけど、傍にいたヤツらがなんとかっていう女優に似てるって騒いでた。  後でスマホで調べてみたら、ちっとも似てなんかいなかった。  センセーの方が断然可愛くて綺麗だ。  それから何人かがセンセーに告白すると言うから、オレも負けてなんかいられない、と道端に咲く花を摘んでセンセーに会いに行った。その花は名前も知らないけれどなんだかセンセーのように可憐な花だったから、絶対センセーにプレゼントしたいと思ったんだ。 センセーは大人だし慣れているのか誰の事も相手にしていないようだった。 なかなかの塩対応に他のヤツらは次々と脱落していって、身近なヤツと付き合い始めた。オレは絶対センセーと付き合いたいから、断られても諦めきれずに毎日センセーの元に通った。  丁度通い始めて一ヶ月が過ぎた頃、センセーが言ったんだ。 「返答によっては付き合ってやってもいいけど。――何でもするって言っても、キミは一体何をしてくれるの?」  オレは、 「沢山の愛をあげる」  そう答えた。そのひと言につきると思ったからだ。  センセーの為ならなんだってできると思った。  毎日会いに来るだとか、好きって伝えるだとか、どうやっても年齢は追いつく事はできないけどセンセーに相応しい男になるように頑張るだとか、全部あなたへの愛だから。だから沢山の愛をあげる。  センセーはオレの答えを聞いて一瞬だけ眉間に皺を寄せたけど、いくつかの条件つきで付き合ってくれる事になった。  天にも昇る心地だった。  それからオレは今までと同じように毎日センセーの元に通った。  違うのは時々センセーがオレの頭を撫でて(・・・)くれたり、オレの話を嫌な顔をせずちゃんと聞いてくれる事。  ツンとデレが8:2くらいだったけど、デレてくれたら本当にすごく嬉しかった。勿論ツンなセンセーの事も大好きだ。  そんな感じで『甘い』とは言えないけどオレたちの付き合いは順調に続いていた。  それが、オレが二年生になって数日が過ぎた頃、二年になって同じクラスになったヤツが言ったんだ。 「なぁ、宮古ちゃんと付き合ってるんだろう? アッチ(・・・)の方はどうなんだ? やっぱ具合いいの?」  ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべながらオレの事を見る。 「アッチ? 具合?」  オレは何の事を言っているのか本当に全く分からなかったので聞き返すと、そいつは呆れたような顔をして続けた。 「アッチって言ったらアッチだろ。セックス。そりゃあもう年上だしバンバンじゃねーの? 俺の兄ちゃんもここの卒業生なんだけどさ、こないだ電話した時聞いたんだ。宮古ちゃんって昔兄ちゃんの先輩と付き合ってたんだって。それでもう毎日ヤリまくりだったらしいぜ? あんな清楚な感じなのにとんだビッチだよな」  センセーに彼氏がいた事につきんと胸が痛んだ。  あんなに素敵なんだからいない方がおかしいんだ……。分かってはいたけどおもしろくはない。  でも、なんでセンセーのそんな話が出てくるんだ? ビッチ?  好き合ってて付き合ってたんじゃないの……? それなのにビッチって……。  別れ方に何か――? 「――センセーって何で別れたの……?」 「は? 何でって当たり前だろ? ここ卒業しちゃえば女の子が沢山いるんだぜ? いくら綺麗だからって男相手に続くもんか。兄ちゃんの先輩もよく自慢話してたみたいだけど、卒業の日に別れようって言った時、宮古ちゃん引きとめもしなかったし平気な顔してたって。だから宮古ちゃんの方も遊びだったんだろうって。お前も卒業ん時、すんなり別れられそうで良かっ……た……」  バキっ!! とオレの手の中にあったペンがものすごい音を立てて折れた。 「……な――――? え? え? え? ……」  ――そんなわけない。  一年間傍でセンセーの事を見続けてきたから分かる。  センセーは傷つきやすく繊細だ。  多分その先輩の事をすごく好きだったんだ。  だからそいつと別れてから誰とも付き合ってこなかった。  オレがしつこくしたから、同情で付き合ってくれたんだ。  センセ、オレ本当にあなたの事が好きだよ。  あなたの苦しみ、悲しみ――まるごと全部愛したい。 「センセーとはキスもした事ない。センセーはすごく純粋な人だ。その先輩ってヤツがクズだっただけだ。お前の兄貴に間違った事言うなって言っといて」  ギロリと睨みそう言うと、「あ、ああ……」とだけ言ってそそくさと逃げるようにオレの傍から離れた。  付き合っていた相手にそんな事を言われてしまったセンセーの気持ちを考えると、悔しくて苦しくてどうしようもなく悲しかった。
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