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「ただいま」
僕は、安アパートの2階の部屋の扉を開けた。
母は、近くのパブで働いて居る。
夜の仕事なので、昼間は眠って居て、僕が帰って来ても気付かないことが多い。
でも今日は違った。
僕が海に行く用意をしていると、母が目覚めて近づいてきた。
「ゴメンね?・・・純」
え・・・何・・・急に・・・
もうこんなの慣れっこなのに・・・
「夕飯も作ってあげられない母親で、ゴメンね?」
更に母は言い募る。
我が母ながら、綺麗な女性だった。
だから、お店でも人気があった。
でも帰ってくるのは僕が高校に行く時間。
ほとんど話らしい話はしたことが無い。
男を連れ込んできた時には、僕は外に行かされた。
2時間ほど、海で時間を潰して帰った。
もう、男は居なかった。
その代わりに、気だるそうな母の姿があった。
「全く、あの男しつこくてねちっこいのが難なのよ。でもまぁ、いい値付けてくれるから・・・・・・・軽蔑する?・・・純・・・」
僕は、気だるそうな母を見ずに、ブンブンと顔を横に振った。
「軽蔑なんて・・・しない・・・だって、僕を高校にやる為にやってくれていることでしょう?僕に軽蔑する資格なんて、無い。」
「お前はいい子に育ったね。私の子じゃ無いみたい。父親がよほど良かったんだね。もう死んじゃったけど・・・・・・・・」
母は遠い目をして壁に掛けてある父の写真をじっと見つめた。
海の男だった。
父は、船の事故でもう何年も前に亡くなった。
「僕、海に行ってくる。夕飯は帰ってから何か作るから。行ってきます。」
僕は母を見ずに、そう言ってアパートの一室を出て行った。
あ・・・
思わず話しかけられたから、水着を忘れた・・・
裸で泳げばいいか・・・男なんだし・・・
僕は海に向かって走り出した。
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