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同じマンションに住んでいるのに、会いたいというのも何だか変な気がする。そんな中、宇部君は笑顔を崩さなかった。
周りの急ぎ行く制服姿の学生を見て、大事なことを私は忘れていたことに、気がついた。
「あ、宇部君、学校遅れる」
「あ一、そうやった! じゃぁ、また!」
焦った顔で踵を返すと、姫路駅のほうへ向かって走り出し、途中で息せき切って、行く。
ふいに冷たくて澄んだ風が吹き、私の背中を押した。周りの黄色に染まり始めた木の葉が風の音に混じり、冷たい空気と共に踊り散らした。まだ先の冬を、告げるように。
肩に淡い秋の朝の光を感じながら、空を見上げる。透明感が強い空の色を見て目を細めた。これからは宇部君に沢山会えるだろう。
寒い冬が来ても、心は暖かく越せそうだ。
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