時効

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「どうすんだよ、ヨシオ。警察を辞めてからさ」 オレの推薦に、タツからの返答はなかった。通うつもりは無いらしい。 「『』さ。第二の人生ってヤツを。オレは警察に入ってからずっと何かを捜し続けていたんだ。地べたを這いつくばりながら犯人や、手掛かりを。だから同じだよ。新しい人生とやらが何処にあるのか、ずっと探し続けるつもりだ。……そういうお前こそ定年後はどーすんだ、タツ」 ジロリ、と見上げる。 「……俺か? そうだな、事件(やま)の心配がなくなれば(やま)歩きも悪くねぇと思っているよ。マイナーだが天狗山なら近いし、天狗岩近くの滝は中々の絶景ポイントなんだ」 「そうか。いいな、そういう趣味があるヤツはよ」 カタン……と椅子を引き「御馳走(ごっそ)さん」と言いながら立ち上がる。 「俺はまだ掛かる。レシートは置いていけ」 タツはまだ海老天と格闘中だった。 「はん? らしくねぇな。はは、明日は嵐でもくるかもな!」  乾いた嗤いを残し、オレは初めて金を払わずに店を出た。  外は強い日差しで汗ばむほどだが、さりとて行かないわけにもいくまい。何しろ、残された時間はあと12時間なのだから。  薄手のトレンチコートを小脇に抱える。  ――事件があった時、真っ先に疑われたのが『保険金詐欺』だった。つまり『金塊だと思っていたものが、最初から偽物だった』という可能性である。 が、しかし。 そうだとすると何処かに『本物』があるはずだし、担当の社員や帳簿に何かしらの不審点が出るものだ。そういう気配は、何処にもなかった。  金塊は今もって発見されていないし、何処にあるのか見当も着いちゃぁいねぇ。何処かへ巧妙に隠されているんだろうが……。  輸送途中で故障した車だが。後で点検した結果、燃料ポンプのホースに不審な機械が取り付けられていたのが発見された。外部からの無線信号でガス欠させられる仕組みらしい。巧妙に取り付けられていて、メーカーのエンジニアが『図面に無い部品がある』と気づいたのだ。  いくら『これは専門家でないと分かりませんよ』と庇われても、オレを見る周囲の眼は冷たかった。何故なら金塊を積んで発車する前に、もう一人とオレとで車両を隈無くチェック……したはずだったのだから。  どうしてあの時見つけられなかったのか。『よほど変な事はないだろう』という思い込みもあったろう。  仮に、だ。  仙水社を出る時には『間違いなく金塊だった』として、七合社に到着した時点で『比重を調整した偽物』に変わっていたならば『すり替えが起きた』のは金塊をパトカーに移し替えたタイミングしかない。だから犯人は輸送車に細工をして『止めた』のだ。    捜査本部はそう推理して、あの時使っていたパトカーを内密に調べてみたところ……。  後部座席の内側に詰め込まれたウレタンが、ごっそりと抜き取られていた事が判明する。更にトランク内側に面している後部座席の背面がになっていて、その間に人ひとり隠れられる空間があったのだ。  つまり、犯人は大胆にもパトカーの後部座席の中に隠れていて、金塊がトランクに積まれたタイミングでトランク側に姿を現し、予め用意していた『ニセ金塊』と本物をすり替え、そのままシートに潜伏……。  100キロと言えば大量に聞こえるが、金の重さは水の20倍近いから体積は5リットルほどしかない。大排気量な現代のパトカーなら、重さも大して関係なかったろう。  そしてその晩にパトカーが警察の駐車場に帰ってきた時点でこっそりと脱出し、金塊を運び去ったものと推定された。 問題のパトカーは署で最も『いいヤツ』で、当時の捜査一課長だったタツの『愛車』だった。それを『万一の時に犯人とカーチェイスになって負ける訳にはいかない』と、特別に借り受けたのだ。……散々渋られたが。 つまり、犯人は当日『その車』が護衛に使われるのを事前に知っていて、予め細工を施していたと思われる。  これが意味する事は大きい。 そう、『犯人』は警察の内部にいた可能性が極めて高いのだ。  前代未聞の不祥事……だから、この捜査は未だに原則非公開のままだ。
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