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深夜0時、オレは予告通り警察手帳と退職届を『署長』の机に置いてきた。
もしかしたらと思わなくもなかったが、タツのヤツはとっく帰宅して姿は残っていなかった。……薄情な野郎だぜ。
身の回りを簡単に片付けて、永く勤めた古い建物から暗闇に染まった外へ出る。冷たい風に日中の熱は残っていない。
そして、もう一度だけ足を止めて思い返す。
何か、見過ごしはなかったのか。
どんな小さな事でもいい、見過ごしはなかったのか。本当に手掛かりは残されていなかったのか。
慢心や慣れでダラダラと捜査をしなかったのか。もしもオレの後に誰かが追加調査をして『決定的な何か』を発見でもすれば、それはあまりに悔やまれるだろう。
何処かに、何処かに。何かひとつでも……。
時代遅れで性能の悪い頭をフル回転させて、この20年間をもう一度振り返る。いや……もういいか。何しろ『時効』なんだから。
玄関の階段を2つ降り、アスファルトに足を下ろす。この瞬間、もうオレは警察官ではなくなった。
寂しく街灯の灯る歩道を、とぼとぼと歩く。日中は暑くて羽織れなかったトレンチコートだが、夜は寒くて心許ない。
これからどうしようか。結婚もしていないから、女房子供に気を遣う必要もない。何なら暫くの間、海外旅行にでも出かけて長年の疲れを休めたっていいんだ。無駄遣いを知らねぇ公務員だったし、金なら……。
いや……待てよ。
今更ながら、ひとつだけ『心残り』を思い出したぞ。あのクソッタレでシミッタレでパワハラ野郎のタツだ!
何しろアイツは、金塊事件の時に捜査一課長として警備の段階から関わっていたんだから。完全な『盲点』……。
あいつめ……何だよ、『手伝ってやるから分前は半分と約束しろ』って。まったく、腹がたつったらありゃしねぇ! てめぇ、それでも警察官かつーんだよ。
だがまぁいいか。
ヤツがシートに隠れて金塊をすり替え、それを密かに隠し持ってくれるという難役をこなしてくれたお陰で、どうにか『晴れて時効』になったんだからよ。
え? 何でオレが『それ』を知ってるのかって?
決まってンだろ、それはこの事件がオレとタツの共犯だったからよ。
ふふ……バラしたって構わんだろう? もう時効だからな、時効!
そう、オレが20年も捜し続けていたのはオレが犯人である証拠だったんだ。もしもそれが『ある』とするなら、真っ先に自分が見つけて握りつぶす必要があったから。
タツはオレに言ったんだ。「お前の捜査姿勢を正当に評価したい」って。正当な評価……金しかねぇよなぁ!
さっき、時計屋の親父は『妙な金取引は確認出来ていない』と言っていた。つまり、タツも勝手に換金はしていないって事だ。だから『金塊』はまだそのまま存在していると見ていい。
ならば、それは何処にあるのか。……いや、さっき蕎麦屋で話した『あれ』がきっとその暗号のつもりなのだろう。
『事件の心配が無くなれば山歩きも悪くない』……か。少なくとも『オレの取り分』はそこに隠してあるに違いない。
「天狗山の、天狗岩近くにある滝が絶景だって言ってたな……夜が明けたら早速行くか!」
宝石のように輝く星空目掛けて、オレは大きく伸びをした。
「金塊を探しによぉ!」
完
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