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「咲ちゃんは、お花は土から離れると、死んじゃうって思ってない?」
「……思ってます」
「でも、実際は生きているんだ。枯れるその時まで、息をして生きてる。──なんなら、枯れたあとだって、種を残して、新しい命を繋いでる」
「すごい生命力ですね……」
咲は感心した。
「そうだよね。お花って、すごいよね──だから僕は、お花が土から離れたあとも、出来るだけ長く、綺麗に生きられるよう、手助けをしてるんだ」
「素敵な考えですね」
咲の言葉に、花音は、いやぁ、とおどけてみせた。
「で、話を戻すと、チューリップは生きているから、光を求める」
「光を求める?」
うん、と花音はうなずいた。
「光屈性っていう性質なんだけど」
「光屈性……」
なんだか難しい言葉だ。
「有名なところだと、向日葵かな」
「向日葵?」
咲は首を傾げた。
「ほら、向日葵って、太陽を追いかけてクルクル動くでしょ」
そういえば、小学校の理科で習った気がする。
「それが、光屈性。──いろんな植物が持ってる性質だけど、チューリップは特にそれが強くて、光を求めてグニャグニャ動くんだ」
「そうなんですか?」
「そうなの。朝に生けたお花が、夜には全然違うほうを向いてたりする」
暴れん坊なんだよね、と花音は肩をすくめた。
「で、悠太くんの喫茶店のチューリップは、全部、厨房を向いていた」
「あ、それで」
悠太の喫茶店で、花音がアレンジを見ていた理由が、ようやくわかった。
「だから、長い間、厨房にいたんだろうな、って想像できたんだ」
花音は推理の種明かしをして、ニッコリと笑った。
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