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「……お花って、奥深いですね」
花音の話を聞いて、つくづくそう思った。今までなんとなく眺めていた花の、ちょっとしたエピソードを知ることで、別の見方ができるのが面白い。
チューリップは、咲の中で、随分前に流行った『フラワーロック』のイメージに変わっていた。──あれは、音に反応して動くのだけど。
「もっとお花について、知りたくなりました」
「お花だけ?」
「えっ?」
「僕は?」
花音が悪戯っぽい目を向ける。思いがけない言葉に咲の顔は真っ赤に染まった。
「な、なにを……」
「なーんてね」
答えに困って慌てる咲を、花音はクスクスと笑った。
「冗談だよ、冗談。咲ちゃんってば、かわいい」
──花音さんは意外に意地悪だ。
咲はプクッと頬膨らました。
「まあまあ、そう怒らないで」
花音は笑いをこらえながら、咲をなだめた。
「──でも、お花のこと知りたいってことは、生徒さんになってくれるってことなんでしょ?」
嬉しそうに尋ねる。
「お願いしますって言いたいところなんですけど……」
咲は口ごもった。
「言いたいところなんですけど?」
花音が首を傾げ、その先を促す。
「ちょっとこれから、忙しくなりそうで」
「忙しくなる?」
「はい」
「お仕事?」
「えっと……」
「それとも、結婚?」
『結婚』という単語に、咲は小さく肩を動かした。そのままうつむき、黙りこくる。
その様子に、花音が小さくため息をついた。
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