チューリップはよく動く

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「それで、今度その人と会うことになって。──たぶん、このままズルズルと……」 「それは、困ったね」と花音は腕組みをした。 「父は、結婚が決まったら、仕事も辞めろって。もうほんと、固定観念の固まりですよね」  話していたら、だんだん腹が立ってきた。でも、それも長くは続かない。 「──でも、私も父のこと言えないかな……」とトーンダウンする。 「どうして?」  花音が首を傾げた。 「私も少し前なら寿退社もいいなぁって思っていたから」  自嘲気味に笑う。 「今、小さな設計事務所で、建築士を兼ねたインテリアデザイナーをやっているんです」 「あ、やっぱり、インテリア関係のお仕事なんだ」  ええ、と咲はうなずいた。 「ちょっと前では、雑用みたいな、お茶汲みみたいな仕事しかさせてもらえなかったんですけど」  その頃に結婚の話があったら、仕事を辞めていたのだろうけど。 「──でも、最近、小さな仕事を任せてもらえるようになって。そしたら、仕事が楽しく思えてきて。いろいろ挑戦してみたくなったんです。フラワーアレンジメントも、仕事の役に立つかなぁなんて……」  咲の瞳が悲しげに揺れた。 「でも、結局、カゴの中の鳥でした。今のままだと、父の考え一つで、人生を左右されてしまう」  咲は唇を堅く結んだ。 「だから、カゴから出ないとって。……家を出て、自立しないといけないって、思ったんです」 「家を出る……」 「はい」 「……咲ちゃんは、強いね」  花音は眩しそうに目を細め、咲を見つめた。 「いえ、そんなこと……。逆に、いつまでも親に甘えて、実家暮らししていたからこんなことになってしまって……」  咲はしょんぼりと肩を落とした。
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