お食事処編

33/40
50人が本棚に入れています
本棚に追加
/236ページ
でも……、では鈴音は? あらためて、自分が何をすべきか考えて、そこで何も思いつかないことに激しく自己嫌悪した。 鈴音はまた、何も出来ない。 さっきもこんな気持ちになって、つい飛び出してしまったのだ。 でも密漁の現場を目撃しても、ひとりで無茶なことをして、春一に心配をかけただけだ。 一体なんのために、自分はここにいるのだろう。 「……ね、鈴音」 何度か呼びかけられて、ハッと我に返った。 春一が心配そうに覗き込んでいる。 「どうかした?」 それから目をすがめると、 「もしや、怪我でもしたのか?」 両手を振ってワタワタと慌て出す。 「ごめん、俺気づかずに。冬依、急いで救急車――」 叫ぼうとしたのを、慌てて口を塞いで止めた。 鈴音の手のひらが春一の顔に当たってパチンと鳴る。 「大丈夫です春さん。どこも怪我してません」 「ホントに?」 「ホントです」 鈴音は笑おうしたが、どうしても引き攣った笑みになる。 「無理してない?」 春一が疑うように聞いてくるので、 「はい、大丈夫です」 コクリとうなずいた。 「……そう」 一応は納得してくれたようだが、でも春一は、まだどこか釈然としない顔をしている。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!