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記憶喪失編(夏樹)
鈴音から連絡を受けて、春一は家へ飛んで帰った。
「夏樹が起きないって?」
「春さん、帰ってきてくれたんですね!」
駆け込むなり、ダイニングテーブルに座っていた鈴音がパッと顔をあげる。
「当り前だ」
春一は息を整えながら、鈴音の側まで歩いていく。
不安そうな顔をしている頬にそっと触れながら、
「俺だって心配ぐらいするさ」
すると、
「春兄が心配なのは、夏兄じゃなくて、絶対鈴ちゃんだよね」
鈴音の向かいに座っていた冬依が言う。
「そーそー、夕べなんて、放っとけって言って、ナツキの顔も見ようとしなかったもんな」
リビングのソファーに寝そべっていた秋哉も体を起こしてきた。
春一は、
「いやだって、女の子に殴られて寝込んでるなんて聞かされちゃ、そっとしておいた方がいいと思うだろうが」
言い訳してみるが、
「結局、春兄は鈴ちゃんのことしか目に入ってないんだよ。ボクらがいるのに、ちっとも気がつかないしね」
冬依が拗ねたように唇をとがらせる。
そこでようやく春一は思い出した。
「お前たち、学校はどうしたんだ?」
「そんなことより――」
冬依が慌てて口を挟む。
「夏兄がどうしたって起きてこないんだ。さすがに異常だよ、これは」
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