4.夏休みは面倒ばかり

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 ガタゴト新幹線に揺られ、目的地の最寄駅に到着する。一人でここまで遠出するのは初めてだ。  網棚から荷物を降ろして新幹線から下車し、待ち合わせ場所の駐車場へ向かう。朋也は佐倉家の使用人がここまで送ってくれるらしい。上流階級だ。 「あ、南雲くん!」  よく通る甘やかな声が聞こえた方向を見れば、キャップを目深に被った朋也が手を振っていた。キャップの被り方だけ見れば不審者っぽいが、目立つルックスのせいで芸能人っぽくも見える。  手を振り返して朋也の方に足を進めると、朋也の後ろに控えていた佐倉家の使用人らしき人が頭を下げ、俺の荷物まで預かってくれた。何だか申し訳ない。 「そういや髪結んでないんだな」 「うん、面倒臭くて」  涼しそうな表情で立ってはいたが、やはり暑かったようで汗はかいており、首筋にホワイトベージュの髪が張り付いていた。うざったそうだな。  観月との約束の時間まで、まだ十五分くらいある。駅の中に入って涼んでいる方が賢いだろう。 「暑いし中で待ってようぜ。飲み物は持ってんの?」 「来る途中で飲みきっちゃった」 「それならコンビニ行くか」 「えっ」  何でコンビニ如きで嬉しそうなんだよ。学園の購買の方が品揃えいいのに。  コンビニ特有の軽快な入店の音楽が鳴り、店内を楽しげに歩く朋也を視界に入れつつ、飲み物のついでに制汗シートなど今必要な物を手に取る。あ、アイスも買お。 「朋也、決まったか?」 「うん!」 「楽しそうだなお前」  ぱぱっと会計を済ませ、コンビニが名残惜しいのか著しく歩行速度が遅くなる朋也の腕を引いて退店する。  コンビニを出て購入したアイスを溶ける前に食べ、これまた購入した制汗シートを朋也に渡す。 「なあ、暑そうだし髪弄っていい?」 「え、いいの?」 「そのために色々買った」  朋也と人気の少ないところに移動し、近くにあったベンチに朋也を座らせる。キャップを外させ、早速髪に櫛を通す。めっちゃサラサラしてる。  いつものハーフアップだと首回りに髪があるから暑いだろうし、一つに纏めるか。あと変わり映えしないのも面白くない。  サイドの髪を手早く編み込み、後ろで一つに括る。ピンで軽く押さえれば完成だ。中々上手くできた気がする。 「っし、完成ー」 「南雲くん、手慣れてるね」 「あー……まあ、幼馴染のせいだな」 「女の子?」 「女、の子……生物学上はそうだな、ウン」  俺が頷くと、朋也はむぅっと小さく頬を膨らませてむくれた。今は学外だし、契約とか気にしなくていいと思うんだけど。演技派か? 「その子のこと好きだったりする?」 「アレを女として見れねえわ」  ガワが良かろうが中身が中身だ。  ミナのことを知る同級生男子達は、皆一様に「中身がなぁ」と口を揃えていた。自分の彼女に妄想で男を宛てがわれるのは嫌だろ。 5f42c836-898c-4cde-9560-6f386da9412e
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