4.夏休みは面倒ばかり

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「名前くらい教えてあげてもいいのでは?」 「そうだよ!承太郎が聞いてるんだから!」  転校生が声を荒げたため、従兄二人も気を取り戻したらしい。先程まで俺の顔にデレッとしていたくせに、転校生の援護射撃を始めた。  転校生相手だけなら躱せたが、転校生信者らしいこの二人も相手となると少々面倒臭い。聖吾が俺の援護をしてくれたところで、聖吾を下に見ているであろう二人は引かないだろう。  頼みの綱の伯父は先程の俺の笑顔をまだ噛み締めているようで、こちらのことは完全に無視だ。早く戻ってきてほしい。 「何でそんなに名前知りたいわけ?」 「だって俺達友達だろ⁈」 「違えけど」 「え⁈」  こっちがえ?だわ。名前知らねえ友達ってめちゃくちゃ怖いわ。ネッ友じゃあるまいし。俺SNSもオンラインゲームもしてないから、ンな繋がりないけど。  というか、一応歳上である俺を躊躇いなく友人扱いするのある意味凄えな。中学の部活で縦社会の厳しさを叩き込まれた人間からすれば、ある種の尊敬の念を抱きそうになる。  だが、ここで転校生のこの態度を許容してしまうと、将来的に苦労するのはコイツだろう。今までどんだけ甘やかされて育ってきたのかは知らんが、俺は甘やかすほど転校生に興味は無い。 「しゃーねえ。名前教えてやる代わりに、俺のことは先輩扱いしろ。敬語で話せ。呼び捨てにすんな」 「えー!友達だろ⁈」 「だからテメェとは友達でも何でもねえからな。それが守れねえんなら教えねえ」 「うぐぐぐ」  そう伝えると、転校生は低く……はねえか、高めの声のまま唸った。どんだけ俺を友達扱いしたいんだか。  白けた目で転校生を見ていると、ようやく答えを出したのか、転校生がバッと勢いよく顔を上げた。即断即決みたいな男のくせに、この程度のことで悩んでいるのは変な感じだ。 「……分かった!」 「分かりました、だ」 「分かった、ました!」  うーん、先が長そう。 「俺は中野南雲。中野先輩って呼べ」 「えー!南雲って呼びたい!ます!」 「そこは“です”だ。お前に名前呼びはまだ早え」 「えー!」  転校生の丸い額めがけて指を弾く。ぺしっと弱い音が鳴り、痛くはないだろうが不意の衝撃に咄嗟に額を手で押さえていた。  信者二人が口を開こうとするもいつの間にか復活した伯父が目で諌め、それ以上発言することはなかった。当主様、強い。  藤乃咲家ってマジで身内に厳しいんだな。俺は身内というには外なのでおそらく含まれてない。頼むから含まないでほしい。 「約束は守れクソガキ」 「俺のことは承太郎って呼んで!です!」 「距離縮めるの早えし、テメェは嘉風で十分だわ」 「えー!」  えーえーうっせえな、コイツ。
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