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聖吾が三人を蹴り出す勢いというか本当に蹴り出して部屋から追い出し、しっかり鍵まで閉めていた。容赦ねえな。
騒音が遠ざかっていくのを確認し、後ろに立つ聖吾が口を開いた。
「名前教えてよかったんスか?」
「そうしねえと退散してくれねえだろ」
「先輩扱いしろってヤツは?」
「嘉風の将来のため」
「短時間でそんなこと考えてたんスか」
大声野郎とやり取りしていたせいか若干痛む耳を労わりつつ、いつもより酷使した喉を潤す。あの三人のせいで美味い紅茶が冷めてしまった。
というか藤乃咲家当主様が目の前に居るのに、使用人が勝手に口を開いていいのか?金持ちルールは全く知らんが、多分駄目な気がする。
「教育者向きな思考だな」
「俺、特別頭良くないっすよ」
「頭の良さだけで教職は務まらない」
あれ、聖吾には何も触れないのか。伯父的にはセーフな感じか?
つーか、教育者向きな思考って何。仕事人間の両親の代わりにほぼほぼ静流が面倒見てくれてたから、その考え方が移ってしまったのだろうか。アイツが元ヤンのせいで口の悪さも移ってしまったのだが。
……教育者向き、ねぇ。それは他人に興味がある奴の方が向いているんじゃないか?そりゃ相手が困ってたら手を差し伸べたりするけど、相手のパーソナル的なことは興味無えし。俺はそんなにお優しくねえんだわ。
「買い被りすぎっすね」
ティーカップの冷めた紅茶を一気に煽り、ソファーから立ち上がる。
さて、どうやって帰るかな。てか、ここ何処だ。車の中で現実逃避してたせいで帰り方が分かんねえぞ。
聖吾の方を見れば、片眉を上げ、ついてこいと言わんばかりにドアの方に足を進めた。うん、何とかなりそう。
聖吾はドアノブに手を掛け、ドアを開──かない。ガンッてなった。聖吾カッケェのに格好付かなくてちょっと面白い。
「お前さっき鍵閉めてたじゃん」
「……スね」
普段よりよく見える項が赤くなった。
今度こそドアを開け、俺が出てから聖吾も退室した。
ずんずん突き進んでいく聖吾の後に続き、案内された部屋に入る。おそらく客室だろうか。何で?
「は?俺帰りたいんだけど」
「お望み通り帰したいのは山々なんスけど、俺じゃ送迎の手立てが無いし、タクシーを呼ぶにしても親父とかジジイとかにバレるんスよ」
「聞いてねえ」
「その間のお世話は俺がするんで、困ったことがあってもなくても俺を頼ってください」
今現在絶賛困ってる。
と言っても、聖吾がどうにも出来ないなら俺も無理だ。拘束期間にもよるが、とりあえず今日は大人しく泊まった方がいいかもしれない。
「……いつ帰れんの?」
「俺もさっき知らされたんで詳細知らないんスよ。なるべく早く帰れるよう説き伏せてくるっス」
「はあ……頼んだ」
「っス」
夏休み冒頭から前途多難である。
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