4.夏休みは面倒ばかり

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 藤乃咲邸に来てから三日経った。  飯は美味いし家事はしなくていいし楽っちゃ楽だが、そろそろ豪華な生活に慣れてない(一般市民)の身が持ちそうにない。一刻も早く帰りたい。  聖吾の交渉は難航しているようで、顔を合わせるたびにまた駄目だったと首を横に振られる。最早俺が直談判した方が早いのではなかろうか。  つーことで。 「伯父さんに会いたいんですけど」 「アポ無しは困ります」 「無理ですか?」 「……南雲様相手なら無理ではないかもしれませんが」  聖吾を引き連れ、説得に伯父の書斎に向かった。花島さんに言われた通りアポ無しである。  花島さんはそう言うと、再び書斎に戻っていった。何故か俺に甘い伯父のことだ、頷くかはともかく話くらいは聞いてくれるだろう。 「南雲様、どうぞ」  やはりと言うべきか、即座に許可が下りたらしい。  花島さんが開けたドアを潜り、軽く頭を下げてから入室する。嘉風と従兄の乱入には青筋を立てていたが、今回はどうだろうか。アポ無しだし流石に怒ってるか? 「お忙しい中、俺のために時間を作っていただきありがとうございます」 「ああ、座りなさい」  よし、特に怒ってはなさそうだ。何ならちょっとだけ嬉しそうな雰囲気が漂っているような気がする。  指し示された革張りのソファーに腰を下ろし、伯父が座ってから早速口を開く。 「あの、俺いつ帰れるんですか」 「帰りたいのか?」 「そりゃそうでしょ。息詰まるし」  それに、大量に送られてくる静流のメッセージが徐々に物騒になっていっている。そろそろ特攻をカマしてきそうで怖い。  それと懸念すべき点はもう一つある。嘉風が家に帰ったせいか、従兄達の雰囲気がめちゃくちゃ悪い。顔を合わせるたびに睨まれるのマジで嫌なんだけど。 「ふむ、それなら条件がある」 「条件?」 「ただいま」  家まで送ってくれた花島さんに軽く会釈し、鍵を開けて中に入る。  若干家の中が荒れているが、もしかしなくとも静流が暴れていたのだろう。大人なんだから少しは落ち着いてほしい。  とりあえず掃除と片付けだな。汚部屋で飯を食う趣味は無いし、気分転換にもなる。帰るために仕方なかったとはいえ、嫌々呑んだ条件のことはなるべく考えたくもない。  ひとまず帰ってきたことを母さんと静流に報告し、洗われていた部屋着と貰ったというか押し付けられたクソ高そうな服を片付ける。藤乃咲家と関係ある物は残したくないのだが、捨てるのも勿体無い。服はありがたく貰っとくことにする。 「うし、掃除機かけるか」  その後は昼飯作って、冷蔵庫の中身次第で買い物行って、夜飯は外か出前で済ませるか。今日は静流帰ってこねえし。  静流から爆速で返ってきたメッセージに既読だけ付け、聖吾から来たメッセージに返信する。メッセージの遣り取りは面倒だが、聖吾とは連絡とっておかないと後々俺が困る。 「はーぁ、面倒臭えー」
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