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それからは特に問題も無く、夏休みの課題を熟したり、短期バイトでスーパーの品出しをしてたら逆ナンされたり、そんな凡庸な日々を送った。平和である。
ちょくちょく来る聖吾のメッセージに既読を付け、メッセージアプリを閉じようとしたタイミングで新たなメッセージが届いた。相手は珍しく観月だ。
『佐倉も誘っとるんやけど、僕の実家来んか?』
観月の実家って高級旅館の望月屋じゃねえか。俺にそんな大金ねえぞ。どう考えても無理だろ。
『僕の実家ちゅーても、旅館やなくて離れの方に泊まってもらうことになるんやけど』
マジかよ、高級旅館の料理と風呂は堪能できるらしい。俺が出す金は交通費のみでいいと。観月神。
『行く。高級旅館に誘ってくれる観月好き』
『相変わらず現金なやっちゃなぁ』
日程を聞き、すぐさま参加の意思を表明する。インドア派だが、この機会を逃すのは手痛いだろう。あと普通に楽しみ。
その後すぐ朋也の方も快諾したらしく、三人のトークグループの方でメッセージの遣り取りをした。
最初からそっちで話せばいいと思うのだが、俺が未読無視常習犯のため、比較的既読の付きやすい個人の方で連絡をとってきたらしい。正直すまんと思ってはいるが、直す気は今のところ無い。
望月屋に訪ねるのは一週間後。伯父との約束は再来週だから、英気を養うにはピッタリだろう。アレがなくても行ってたけど。
「っし、最後のバイト行きますか」
携帯端末を閉じ、スニーカーに足を突っ込んで家を出た。
「中野くん、おはよう!」
「あ、おはようございます」
バックルームで制服のエプロンを着けていると、女子大学生の先輩バイトがニコニコ話しかけてきた。逆ナン筆頭である。
今日でこの人からの逆ナンとおさらば出来ると考えると、普段より愛想良くなるのも仕方ないだろう。この人、清楚系の見かけによらず肉食だから疲れるんだよな。
「今日で最後なんだよね。寂しくなるなぁ」
「金は十分稼げたんで」
「お姉さんが夜ご飯奢ってあげようか?」
「あーいや、今日兄が奢ってくれるんでいいっすわ」
「えー。じゃあ今度行こうね?」
「……機会があれば」
キュッとエプロンの紐を結び、社員さんが事前に荷物を積んでくれていた台車を引っ張って売場へ逃走を図る。
クソ、このスーパー行きつけだから飯に関してはここ暫くは逃げ場ねえぞ。困ったな。鉢合わせねえようにしないと。
「あらあら、相変わらずモテモテねぇ」
「助けてくださいよ」
「うふふ」
言い寄られる現場も、顔見知りのベテランパートさんには微笑ましく見られるだけだ。誰も助けてくれない。
うふふじゃねえわ。マジで困ってんだけど。
「本当無理だから助けてください」
「仕方ないわねぇ」
最後のバイトはパートさんガードでどうにかなった。マジ感謝。
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