4.夏休みは面倒ばかり

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「南雲くんがそうだとしても、相手側がどうかは分からないでしょ?」 「ハッ、ねえよ」  アイツ、静流のこと好きだし。  ……口にするようなことじゃねえから言い含んでみたけど、なんか側から見れば俺がミナに片想いしてるみたいになってねえか?少女漫画みたいなことをしてしまった。最悪だ。  やはりというべきか朋也は訝しむように目を眇め、感嘆詞のみ口にした。 「へえ……」 「マジで無いから。ほら、そろそろ行くぞ」 「ふぅん……」  一向に歩こうとしない朋也の手を引き、佐倉家の使用人と合流し、待ち合わせ場所である駐車場に戻った。  駐車場には高級車が停まっており、俺達に気付いたのか中から観月が降りてきた。見慣れた洋服ではなく、奴が身に纏っているのは着物だった。 「久しぶりやなぁ!」 「え、着物……?」 「実家の仕事手伝っとったら時間ギリギリになってしもうてな、着替える暇がなかったんや」  観月は着物の袖を指先で摘み、くるっと一周回った。本当に着慣れているらしく、辿々しさは一切無かった。 「どぉや、似合わへんやろ?」  きゅるんとした表情をしながら胸を張って似合わない宣言っておかしいだろ。  てか、普通に似合ってるし。七五三以外で和服を着たことない俺の方が着られてる感出るだろ。嫌味か。 「似合ってんぞ」 「うん、素敵だよ」 「ホンマ⁈初めて言われたわぁ!」  顔を綻ばせ、ぽわぽわ花を飛ばす観月はまあ、うん、認めるのも癪だが可愛げがある。勿論小動物的な意味でだが。  犬耳が見える観月の頭をわしゃわしゃ撫で、佐倉家の使用人から受け取った荷物を車に乗せ、観月に言われるがまま乗り込む。最近高級車に乗る機会が多い気がするが、初回は不可抗力である。 「今夜は近くで花火大会あるから、皆で浴衣着て参戦しようや〜」 「浴衣着たことねえ」 「え、そうなの?じゃあ俺が着付けしてあげるね」 「助かる」  高級旅館望月屋に到着し、観月に案内されるまま離れに向かう。確かに本館と比べれば荘厳さはないが、離れは離れでとんでもなく豪華である。家の庭に鹿威(ししおど)しあるとかマジかよ。  カポーンという静謐(せいひつ)な澄んだ音に癒されつつ、案内された部屋に荷物を置く。お邪魔しているのにも関わらず、俺と朋也で別部屋を用意してくれたらしい。  ウチも伊東家も最近拉致された藤乃咲家もフローリングのため、畳に若干心が躍る。いいな、畳。畳は天然物のい草畳らしく、特有の香りに癒される。本当にいいな、畳。  ……ちょっとなら寝転がっても許されるか? 「中野ぉ、浴衣選ぼうや!」 「待って、南雲くんのは俺が選ぶよ」 「おん?それなら佐倉のは中野が選ぶんか?」 「俺のは俺で選ぶよ」 「なんでや!」  ……襖の向こう側が少し騒がしい。仕方ない、寝転ぶのは一人になったタイミングにしよう。 「お前らうるせえ」
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