4.夏休みは面倒ばかり

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 観月についていくと、辿り着いた部屋に様々なデザインの浴衣と帯が用意されていた。ふむ、自分に何が似合うのかよく分からん。  俺なら無地の地味な物を選ぶのだが、それを手に取ると後ろの男が不満そうに顔を顰める。え、これ駄目? 「南雲くんはこっち」 「地味なのでいいんだけど」 「駄目、こっち」  お前は俺の何なんだよ。  手渡されたのは黒地に複数の金魚が泳ぐ浴衣だった。遠目から見れば地味だけど、これ近くで見るとめちゃくちゃ派手じゃねえか?夏祭りらしいと聞かれればそれっぽいけども。 「帯はそうだね……うん、この白い帯にしようか」  朋也から手渡された帯は白地に品の良い金の刺繍が施されており、詳しくはないが良い品なのだろうと推測できる。まあ、観月が用意した時点で安物な訳が無いのだが。  これ似合うか?朋也の見立てならワンチャン?いやでもアイツ、俺にオーバー過ぎるオーバーサイズさせやがった男だし……。 「それじゃあ試着しよっか」 「拒否権……」 「服に関しては無いかなぁ」 「ほんまに佐倉が中野の選びよった!」  けらけら笑う観月に見送られ、試着用にと用意された隣の部屋で朋也に手早く服を剥かれた。野蛮。 「よし、下も脱ごうか」 「試着なら上だけでいいだろ」 「ざーんねん」  Tシャツであれば上も脱がなくてよかったのだが、残念ながら俺はいつも通りパーカーを着用していたため脱がざるを得なかった。  上に金魚柄の浴衣を羽織り、朋也が抱き締めるような体勢で帯を巻いていく。 「凪おにいさま、こちらにいらっしゃいますか?」  突然勢いよくスパンと開いた襖に、俺と朋也が固まる。襖の方を見ると、可愛らしいワンピースを着た小学校低学年くらいの少女が立っていた。  「凪おにいさま」という発言からして、観月の関係者だろう。構成する色味は似ていないが、顔立ちがそっくりだ。 「わ、まちがえちゃいました」 「みづ……凪くんなら隣の部屋に居るよ」  俺より先に現状を把握した朋也が片膝をついて目線を合わせてそう告げると、少女はポッと頬を赤く染めた。  少女は総じて白馬の王子様が好きといったところだろうか。朋也の華のある顔立ちも、色素の薄い髪と瞳も、柔らかい物腰も、少女心にぶっ刺さる代物だ。初恋キラーだな。 「あ、あの、お名前教えてください!」 「佐倉朋也です。君は?」 「観月葉菜(はな)です!朋也さま、葉菜と結婚してください!」  握手を求めて差し出された手を葉菜ちゃんはスルーし、告白しながら朋也の胸に飛び込んだ。中々積極的な子らしい。  というか、俺空気じゃね?着付け途中の浴衣は帯が中途半端にしか巻かれておらず、どうにも不格好である。浴衣を脱ごうにも、初対面の葉菜ちゃんが居る前で脱ぐのは少し抵抗がある。 「女の子が自分を安売りしたら駄目だよ」 「いいえ!葉菜は朋也さまを好きになってしまいました!結婚しましょう!」 「結婚云々は置いといて、俺の浴衣どうかしてくれ」  口を挟むと朋也には安堵の、葉菜ちゃんには鋭い眼差しを向けられた。この年齢でも女の子は女の子らしい。
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