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「……あなたは?」
「中野南雲。朋也と観月の友人だ」
一触即発というべきか。ピリッとした空気感を纏う葉菜ちゃんに相対するように、俺は表情を変えず言葉を返す。
少々大人気ない態度だったが、おそらく目の前の少女も子供扱いしてほしいわけじゃないだろう。それよりも浴衣をどうにかしてほしい。
「朋也、浴衣」
「邪魔しないでください!」
「一人で浴衣が着れないんだ。仕方ないだろ?」
教育の賜物か、小学校低学年にしては豊富な語彙でキャンキャン文句を言ってくるが、ここで言い返してしまったら流石に可哀想だろう。無視が一番楽だ。
「一人で浴衣も着れないんですかぁ?」などと煽るような、こういうガキのことを何て言ったかな……。ああそうだ、ミナ曰く“メスガキ”を部屋の外にぺいっと摘み出し、ピシャリと襖を閉めて朋也に視線を向ける。
「朋也、浴衣」
「え、うん。……え?」
珍しく呆気に取られたような顔をした朋也が襖と俺の顔を交互に見つめる。襖の向こうも驚きのあまり固まっているのか、物音一つしない。
もう一度同じ台詞を言えば、朋也は戸惑いながら手を動かし始めた。手際良く帯を結び、襟元を整え、いろんな角度から俺の方を見て、満足げに笑みを浮かべた。
「うん、見立て通りだ。良いね」
「そうか?」
姿見の前に立ち、軽く身を捩って確認する。流石俺、顔が良いから派手目な浴衣も着こなせている気がする。朋也の見立ても中々素晴らしい。
帯を解き、浴衣を脱ぎ始めると再びスパンと襖が開いた。次は何だ。
「なんで追い出すんですか!」
「え、俺の生着替え見たかったの?」
「中野さんは興味無いです!」
「興味無いなら俺の着替え中に入るなよ」
怒りで視野が狭まっていたのか俺が着替え中なことに今更気付いたらしく、ぴゃっと逃げて行った。というより、観月の居る隣室に勢いよく駆け込んでいった。元気な子である。隣室から「どわーっ!」と観月の叫ぶ声がした。
朋也の方を見ると、ぷるぷると肩を震わせて笑うのを必死に堪えていた。
「葉菜ちゃん、面白い子だよね……ふっ、んふふ」
「笑い堪えられてねえぞ」
「俺が初恋なのかな?そうだとしたら、ちょっと可哀想だよね」
「それ、自分で言うか?」
パーカーを着直し、脱いだ浴衣と帯をなるべく元通りに畳み、それを抱えて隣室に戻る。
俺達を出迎えたのは、観月の足を掬って転ばせ、その腹の上に腰を下ろした葉菜ちゃんだった。何事?
「え、お前、何女児に転がされてんの?」
「葉菜は馬鹿力なんや……あ痛!こら葉菜!お客さん居るんやぞ!」
「ふ、んふふ……あはは!もう無理!限界!」
ヒィーッと笑う朋也に、葉菜ちゃんははっとして頬をぽっと赤く染めた。そこは女の子らしいのな。
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