4.夏休みは面倒ばかり

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「ええと、改めて。このお転婆娘は僕の従妹の葉菜。今夏休みやから、ウチに遊びに来てたみたいや」  僕も遊びに来るの知らんかったんやけど、と視線を向ける観月から葉菜ちゃんは目を逸らした。なるほど、連絡もなく観月宅に突撃したらしい。  観月は腹の上に乗る葉菜ちゃんを腕だけで持ち上げ、ぺふぺふと優しく頭を叩いた。  女児とはいえ、この年頃の子供を腕だけで持ち上げるとか、観月の腕はどうなってるんだ。流石は馬鹿力らしい葉菜ちゃんの従兄といったところか。 「そんで、葉菜。こっちは僕の友達の佐倉と中野や。失礼なことしたらしばくで」 「求婚は失礼なことに入りますか!」 「どっちにしたかによるけど、佐倉相手なら問題やな」  一般市民の俺はノーカンらしい。  金持ちの婚約というのは随分と大事らしい。まあ、奴らにとって結婚とは愛の形ではなく、互いに益を得るための契約みたいな物なのかもしれない。  ただ、無邪気な女の子の初恋くらいは否定しないであげてほしいとは思う。葉菜ちゃんが無邪気かは正直分からんけども。 「葉菜は朋也さまと結婚します!」 「よりによって佐倉かぁ。ウチと佐倉家じゃ釣り合わんから無理や」 「お前ん家、そんな凄えの?」 「天知とか皇とかには劣るよ」  ニコッと軽く笑って二つの家名を口にしているが、一般市民の俺でも知っている家と比べると大体どこの家も劣るだろ。佐倉家の規模が分からん。  寧ろ、その家と比べられるほど大きい家という可能性もある。俺が知らないだけで、所謂大企業は沢山あるし。観月の発言からして、こっちの方が可能性が高い気がしてきた。  答え合わせをするように朋也に視線を向けるも、俺の考えを読んだのかニコリと笑うだけで躱されてしまった。 「俺は何の柵の無い無垢な南雲くんのままがいいな」 「俺に無垢って単語は合わねえだろ」 「ううん。俺のことを知らない上に、知ろうともしないのが本当に好ましいよ」 「それ褒めとるんか?」  褒められてない気がする。 「葉菜は朋也さまと結婚するんです!」 「観月に得はあれど、佐倉にはほぼ無いから無理や」 「子供の戯言なんだから適当に頷けばいいのに」 「こういうのは小さい頃から知っとかなアカンのや。僕らはそういう立場やからな」  観月はいつもの快活な笑顔ではなく、少し憂いを帯びた微笑を浮かべた。少し大人びて見える。 「だから、まだ大人にはなりたくないよね」 「せやなぁ」  葉菜ちゃんから見たら大人というべき男二人がそう言うものだから、葉菜ちゃんは大きい瞳をうるうるさせて今にも泣き出しそうになっている。少し可哀想だ。  しかも朋也は求婚されている当事者である。あまりにも無情だ。 「あー……恋愛結婚が無いわけじゃないだろ?」 「勿論。佐倉家は恋愛結婚だよ」 「それなら葉菜と結婚しましょう!」  葉菜ちゃん強え。
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