4.夏休みは面倒ばかり

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 観月がなんとか葉菜ちゃんを追い出し、朋也と観月もそれぞれ浴衣を決めた。朋也は白無地の浴衣に黒い帯、観月は藍地で花火柄の浴衣とグレーの帯を合わせていた。  朋也も観月も自分にどういう物が似合うか分かっているようで、何の迷いもなくすんなり決めていた。服に対する興味が薄い俺には出来ないことである。 「どうかな?」 「どや?」 「よく似合ってる」  俺がそう褒めると、二人は嬉しそうにはにかんだ。こういう素直な反応は可愛いと思う。俺なら当然だろって顔するし。  にしても、本当によく似合っている。何と言えばいいのか、俺と違ってそこはかとなく気品を感じる。しゃんと伸びた背筋の問題だろうか。俺が二人の真似をして背筋を伸ばしたところで、ここまで高貴な雰囲気は出ないだろう。  育ちの違いかぁ?俺、一応元金持ちの母さんに育てられてるはずなんだけど。あ、でも主に面倒見てくれてたのは元ヤン静流か……。 「……人生やり直したい」 「急にどうしたの?」 「俺もロイヤルな雰囲気醸したい」 「アッハッハ!やり直しても中野には無理やろ!」  超失礼だが、ちょっと分かってしまうのが悲しい。  今度こそ朋也に全身剥かれ、さっきより時間を掛けて浴衣を着付けられた。 「もうお嫁に行けない……」 「安心して、俺が貰ってあげる」 「そこはお前が行くんはお婿やってツッコむとこやろ」  満足げに微笑みながら俺を抱き締めてくる朋也に、観月がツッコむ。つーか、暑いから離れてほしい。今は夏場だし、浴衣は見た目の割に暑い。  俺の首筋に擦り寄ってきた朋也の頬を押し返しつつ、「相変わらず仲良えなぁ」とけらけら笑う観月を睨む。首がこそばゆい。  観月は相変わらずと言うが、夏休み前はここまでパーソナルスペースが狭くはなかったと思う。帰省して何かあったんだろうか。  そういえば、前帰省した時も表情が少し暗かった覚えがある。実家との折り合いが悪いのだろうか。大人になるのを露骨に嫌がっているし、何かあると考える方が妥当か。 「なあ、朋也」 「んー?」 「触れてほしいか?」  押し返していた頬を優しく撫でれば、朋也は一瞬身体を強張らせた。  これは……うーん、まだ触れない方が良さげか?顔は見えないけど、多分気付かない程度には引き攣らせてそうだし。  朋也は絡ませていた腕を解き、ゆったりとした動作で俺から離れた。うん、涼しい。 「ずるいなぁ」 「そうかもな」 「二人だけの世界作らんといて⁈居た堪れんわ!」  困ったように笑う朋也に優しく笑いかけると、横槍が入った。空気読んでほしい。お前なら読めるだろ。  もう一度観月を睨めば、大袈裟に傷付いたと言わんばかりの表情を浮かべた。 「え、責められるの僕ぅ⁈僕を排除した中野と佐倉が悪ぅない⁈」 「へーへー、ごめんな」 「ごめんねー」 「謝る気ないやろ!まあええけど!」  いいんかい。
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