4.夏休みは面倒ばかり

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 屋台巡りやナンパ回避をしていると、すっかり陽が落ちて、暗くなった道は提灯によって暖かい色合いの明かりが照らされていた。  暗くなったこともあり、顔がはっきり見えなくなったことで漸く鬱陶しい視線から逃れられた。二人にバレないようにホッと息をつく。注目されることには慣れてはいるが、好ましいと思ったことはない。 「観月、そろそろ移動しようぜ」 「ちょい待って!あともうちょいで型抜き成功しそうなんや!」 「これって成功するように出来てるの?」 「物によるけど、観月のヤツは出来てねえと思う」 「見とけ!僕が成功したる割れたぁぁ‼︎」  そりゃそんな角が多い型抜きは難易度高いだろうよ。力は角に集中するんだから。  第一、縁日の型抜きとかくじ引きとかは店側が得するように出来ているのだ。そう易々と成功されては店側は困るのだ。 「おっちゃん!もう一回や!」 「やめとけ。お前の懐が寒くなる」 「え、この程度じゃならへんよ?」  あ、そういやコイツ金持ちだったわ。  何故か無性にイラッときて、再度型抜きに挑戦する観月の頭を軽く叩く。その衝撃で、型抜きは粉々に砕け散った。  観月の絶叫を右から左に流し、同情したのかもう一枚型抜きを差し出そうとする店主に向けて首を横に振って断る。  朋也が観月の脇に腕を差し入れ、力任せにぐっと持ち上げた。観月は「ああっ」と切ない声を出し、持ち上げられたことによって浮いた足をバタつかせた。ガキみてえ。 「ほら行くぞ」 「僕の型抜きぃ〜!」 「こらこら子供じゃないんだから」 「そう言うんなら下ろしてや!」  スンスンと犬のように鼻を鳴らして泣き真似をする観月の手を引き、先程教えてもらった穴場に移動する。まったく、世話の焼ける奴。  観月は俺と繋いだ手を大きく振りながら、きゅるきゅるした大きな瞳で見上げてきた。顔だけなら犬みたいで可愛い。 「中野に任せたら迷いそうやな」 「俺は音痴であって、決して方向音痴なわけじゃねえ」 「じゃあ、何で学内で佐倉と手ぇ繋いで歩いとるん?」 「えー……癖?」  あれは、まあ契約もあるけど。どちらかと言えば、何故か常にうとうとしている朋也の手を引く癖が付いてしまったというか。断じて俺の本意ではない。  元々そんな人との触れ合いを好むタイプではないのだが、どうも朋也の体温は俺に馴染んでいる。幼馴染のミナ相手でもそうは思わないだろう。  俺と観月の半歩後ろを歩く朋也の左手を躊躇いなく右手で握る。朋也は少し驚いたのか、ビクリと身体を震わせた。 「え、何?」 「見ろ観月、俺と朋也の手のフィット感半端なくね?」 「大きさ全然違うんに不思議やなぁ」  驚いたのか数度瞬きを繰り返す朋也に、目を細めてふっと笑みを向ける。 「俺、朋也の手好きだぜ。安心する」 「……奢ってくれるところより?」 「奢ってくれなくても、お前のことは好きだよ」  この距離感を許せるくらいには、多分。
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