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夜空が花火で鮮やかに彩られる。穴場と言うだけあって、人が少なく、何の障害物も無く綺麗に見える。
試しに携帯端末のカメラのシャッターを何度か切ってみるも、どうにも綺麗に撮れない。早々に撮ることをやめ、目に焼き付けることに専念することにした。
打ち上げ花火を見るのはいつぶりだろうか。
中学時代は部活を理由に祭りに行かなかったし、去年はタイミング良くその頃に彼女は居なかったから出かけなかった。そうなると、小学生の頃……それも低学年くらいだろうか。
友達付き合いが悪かったわけではないと思うが、花火を見に行くためだけに暑さを我慢する気はなかった。日が沈もうが夏は暑いのだ。
そんな俺が、ねぇ。
「花火久々だわ」
「祭りはどうなん?」
「それも久々」
「前は面倒で家から出なかった」と零せば、何故か二人は納得したと言わんばかりの声を出した。納得されるのは若干不満だが、出不精気味な俺のことをたった数ヶ月でよく理解しているらしい。
クライマックスが近いようで、低めの花火が怒涛の勢いで咲いては散っていく。
「あ、俺は祭り自体初めてだよ」
「マジ?」
「あー……佐倉はそうなるかぁ」
一緒に過ごしているせいで曖昧になるが、朋也とは住む世界が違うから仕方ないか。観月は温泉街出身ということもあり、俺より祭りに参戦しているらしいが。
なるほど、初めてだったから屋台で珍しくはしゃいでいたのか。観月もそうだったが、ファミレスやカラオケでもはしゃいでいたし、初体験の物は何でも楽しいのかもしれない。
「じゃあ、夏休みの予定ってだいたいどんな感じなの?」
「うーん、仕事を手伝ったり、パーティーに参加したりかな。観月くんもそんな感じだよね?」
「僕はほぼほぼ仕事漬けやけどな」
パーティー、ね。
「そういや俺、今度パーティーに参加するんだわ」
「「え⁈」」
「最近知り合った人に言われて、断れなくてさ」
朋也はともかく、観月は俺と藤乃咲の関係を知らないから名前を伏せたが、この伝え方だと俺の危機感が死んでるような感じがする。二人共、なんか焦ってるし。実際、俺も人にそう言われたら同じ反応を返す。
伝え方が下手だっただけで、最近知り合ったのは本当だけど一応親類だし、聖吾も居てくれるし、二人の反応ほど心配なことはないと思う。希望的観測だけども。
「大丈夫だって」
「ええ……?」
「その話ぶりで安心は出来ないよね」
「本当に大丈夫だ。……多分」
伯父との約束だから、あっちも俺のフォローしてくれるだろうし。寧ろしてくれないと困る。
「佐倉、中野のリードはしっかり握っとかなあかんよ」
「そうみたいだね。心配だな……」
「観月に犬扱いはされたくねえ」
「されるようなことを中野がしとるんやけど⁈」
観月の叱責と同時にクライマックスのデカい花火が夜空を明るく彩った。タイミング悪。
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