愛だろ、愛

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愛だろ、愛

「なにソレ、ウケるぅー!」  俺達の愛の巣に上がり込んだ、長い髪の眼鏡女が大口開けて笑っている。この女は、何度か姿を見ている。別に恋敵(ライバル)じゃねぇし、梨乃が楽しそうだから、俺にとっては無害――まぁ、どうでもいい存在だ。  女2人で帰宅するや否や、俺のことなどそっちのけで、テーブルの上一杯に、食い物やら銀色の缶を並べ出した。それからかれこれ、1時間近く喋ってやがる。 「アイツ、あたしのこと『冷血女』って突き飛ばしたんだよ。酷くない?」  梨乃は、銀色の缶を掴むと傾け、ゴクリと喉をならした。今日の彼女は、白いパンツの上に青い横縞(ボーダー)のロングTシャツ。髪も無造作に一括りにしただけ。睫毛も伸びてない。 「だけどさぁ……」  眼鏡女の視線がチラリ、何故か俺に飛んできた。 「結果的に、良かったよ。梨乃は学部が違うから知らなかったとはいえ、アイツ、『俺様束縛男』で有名だったんだよ?」  眼鏡女の手が箱の中からピザを持ち上げる。ビローンとだらしなくチーズが伸びた。 「手も早くてさぁ……女の子、何人も泣かせたって」 「えぇー、までは、優しくてぇ……全然、そんな素振りなかったのにぃ」  更にグビグビ缶を飲み干し、天井を仰ぐ。 「だからぁ、食われる前で良かったって話。あんた、あそこのインコに助けられたね」  おっ。分かってんじゃねぇか、眼鏡女。  2人が俺に注目したので、思わずブランコに飛び乗って、大きく揺らした。 「うー、ピースケがぁ? ナイナイ。あんなの、ただのイタズラじゃん」  鼻の上にシワを寄せると、梨乃は顔の前で大きく手を振り、鏡台を見上げた。白い貝の皿の中には、相変わらず鍵が置かれているが、新しいアクセサリーはイチゴからトマトに昇格し、流石の俺でも持ち上げられなくなった。 「そもそも、家の鍵、隠すな、って話だよ」  スタンドミラーにアクセサリーボックス。彼女が向ける視線の先に、あの黄色い「宝物」は、もう居ない。ヤツが帰った翌朝、グレーの布が剥がされた時には、鏡台の上から消えていた。  虚ろな眼差し。横顔がクシャリと歪んで、抱えた膝の間に埋めた。 「やだ、もう酔ったの?」 「チカちゃん、ヤケ酒、付き合ってくれるって言ったよね……」  声に涙が混じる。眼鏡女が隣に移動して、俯いたままの梨乃の肩を抱いた。今夜は、俺の出る幕じゃねぇな、こりゃあ。 「はいはい。お泊まりセット持ってきたから。とことん付き合ってあげるよ」  眼鏡女は、ポンポンと頭を撫でる。 「うわーん。どっかに、いー男、落っこちてないかなぁー」  居るじゃねぇかよ、いつも、すぐ側に。  彼女がサラリと俺を除外していることに、嘴を尖らせながら、ブランコをゆっくりと揺らした。 【了】
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