20人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
喜々として
「えっ、いいのぉ? うん……会いたい……嬉しいよぉ」
なのに、コイツは俺の前で、他の男に嬌声を上げる。目の前に居る俺を無視して、目の前に居ないアイツに花のような笑顔を向けるんだ。
「ん、ありがと。待ってるね、大樹君」
話し終えた彼女は、ふふふと幸せそうに笑うと、俺を見た。思わず、ビクリと身体が震える。
「大樹君、これから家に来てくれるって! お出掛けが潰れたのは残念だけど、お家デートだもん。反って良かったのかもねっ!」
キラキラした笑顔が、胸に苦しい。
なんでぇ……これから俺が、梨乃を独り占めするつもりだったのによぉ。
彼女は、床の上の中身を拾い、バッグに収めていく。それからベッドの上のコートを片づけると、機嫌良く鼻歌なんか歌いながら、フローリング用のホコリ取りで掃除を始めた。
ピンポーン
「あ、大樹君? うん、ちょっと待っててねぇ」
チャイム音と梨乃の声に目を開けた。床掃除の後、テーブルを拭くから、とソファーに追い払われた。そこでうっかり、ウトウトしちまったらしい。
「ごめんね、あんたはあっちで大人しくしてて」
「おいっ? んだよ、騒がねぇって。離せよ、梨乃っ!」
不意に掴まれて、部屋の隅に連れて行かれる。寝起きでボケていて、かわすのが一瞬遅れた。
「止めろよ、こら、梨乃っ」
ガシャン
暴れる俺を押し込むと、彼女は扉に南京錠を掛けた。マジかよ……。
「梨乃っ! 止めろよ、なんなんだよ、これっ!」
扉にかじりつくも、ビクともしない。
「勝手に出て来られると困るの。あたし達の邪魔されたくないし」
俺を見下ろす彼女の瞳は真剣だ。
「ちっくしょう! 堂々と浮気宣言しやがって。それも、俺の見える場所じゃねぇか」
無い知恵を絞って、お前を家に引き止めたのは、目の前で他の男とイチャつく姿を見せつけられるためじゃねぇ! 甘ったるい会話を聞かされるためでもねぇんだよ!
「いい子にしてて。大樹君が帰ったら、遊んであげるから」
必死に叫んだが、彼女はニッコリ笑むと踵を返し、足音を弾ませて玄関に向かってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!