喜々として

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喜々として

「えっ、いいのぉ? うん……会いたい……嬉しいよぉ」  なのに、コイツは俺の前で、他の男に嬌声を上げる。目の前に居る俺を無視して、目の前に居ないアイツに花のような笑顔を向けるんだ。 「ん、ありがと。待ってるね、大樹君」  話し終えた彼女は、ふふふと幸せそうに笑うと、俺を見た。思わず、ビクリと身体が震える。 「大樹君、これから家に来てくれるって! お出掛けが潰れたのは残念だけど、お家デートだもん。反って良かったのかもねっ!」  キラキラした笑顔が、胸に苦しい。  なんでぇ……これから俺が、梨乃を独り占めするつもりだったのによぉ。  彼女は、床の上の中身を拾い、バッグに収めていく。それからベッドの上のコートを片づけると、機嫌良く鼻歌なんか歌いながら、フローリング用のホコリ取りで掃除を始めた。  ピンポーン 「あ、大樹君? うん、ちょっと待っててねぇ」  チャイム音と梨乃の声に目を開けた。床掃除の後、テーブルを拭くから、とソファーに追い払われた。そこでうっかり、ウトウトしちまったらしい。 「ごめんね、あんたはあっちで大人しくしてて」 「おいっ? んだよ、騒がねぇって。離せよ、梨乃っ!」  不意に掴まれて、部屋の隅に連れて行かれる。寝起きでボケていて、かわすのが一瞬遅れた。 「止めろよ、こら、梨乃っ」  ガシャン  暴れる俺を押し込むと、彼女は扉に南京錠を掛けた。マジかよ……。 「梨乃っ! 止めろよ、なんなんだよ、これっ!」  扉にかじりつくも、ビクともしない。 「勝手に出て来られると困るの。あたし達の邪魔されたくないし」  俺を見下ろす彼女の瞳は真剣だ。 「ちっくしょう! 堂々と浮気宣言しやがって。それも、俺の見える場所じゃねぇか」  無い知恵を絞って、お前を家に引き止めたのは、目の前で他の男とイチャつく姿を見せつけられるためじゃねぇ! 甘ったるい会話を聞かされるためでもねぇんだよ! 「いい子にしてて。大樹君が帰ったら、遊んであげるから」  必死に叫んだが、彼女はニッコリ笑むと踵を返し、足音を弾ませて玄関に向かってしまった。
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