Vol.2.王子様が舞い降りた

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 普段は自転車ばかりなので。都心行きの混雑する通勤電車なんか乗るのは、就活の頃以来で。……立ち位置が、まったく分からなかった。恥ずかしながら、いい年して、新人みたく、電車の中で、揺れるたび足元がふらついて。電車が止まりドアが開くたび、濁流のように襲う降車客に押し流される……我ながら、下り滝に落っことされる鮭、みたいだった。  でもなんとか踏ん張って。目的地まであと一駅……って到着したときに、それは起きた。  すごい勢いでおじさんに押し出されて。くき、と足首がねじ曲がったと思ったら、靴が脱げて、しかも、電車の下に滑り落ちてしまったのだ。  勿論それを拾う余裕はなく、客に押し流されて。ひとまずホームに降り立ち、で靴がないことには出社出来ないので、半べそで。片足を、ストッキングの足で立ったまま、呆然と、去っていく電車を見送っていた。  ぞろ、ぞろ、と歩いていく集団は勿論あたしに無関心で。……どうしよう。靴。ホームに落ちたっぽい。拾わなきゃ……でもどうやって? 途方に暮れていたところを、 「――大丈夫ですか」  脱げた足を気にして、上体をやや右に曲げる、変な体勢だったので。――真っ先に目に入ったのは、彼の、綺麗な白い、喉仏だった。
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