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恋する気持ち
最近、お狐様はよく店に顔を出すようになった。
15時を過ぎると必ず店に降りてきて、誰かを探すようにクルリと店内を見渡した。
まだ待ち人は来ていないことがわかると、カウンター内の定位置に座り、手に持った書物を読み出す。
浅葱以外の人間には見えないことが分かったのか、店に降りるときは隠すようにしていた狐耳は今日も丸見えだ。
本に集中するように目を伏せているが、耳は遠くの足音を聞いているのか、時折ピクリと反応する。
そんな千草の反応に笑いを堪えながら、浅葱は声をかける。
「若葉さんは今日は部活で遅くなるようですよ」
「……別にあやつを待っとらん」
若葉は千草の気まぐれで、最近バイトで雇った人間の若い女のことだ。
17歳の高校生の若葉は、まだ数ヶ月だが飲み込みが早く浅葱も重宝していた。
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