狐の喫茶店

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どれくらい時間がたったのだろうか。長いような短いような静かな時間が流れる。 その沈黙は唐突に破られた。 「あなたの望みはわかった。選んだ未来が幸多からんことを」 パチンと千草が指をならす。 夢から覚めたような、ハッと覚醒する感覚。現実に戻ってきたのか、今まで聞こえなかったBGMが耳に届くようになった。 そして店内のざわめき。周りを見回すと席は8割程埋まっていた。 どこか白昼夢をみていたような不思議な感覚に襲われる。カウンターにはあの美女はいなかった。 「お待たせしました」 席まで案内した男が食事を持ってきた。 「俺、これ頼んだっけ?」 「ええ、頼みましたよ。あなたが願っているものです」 亮介の目の前にはメロンソーダとホットケーキが並んでいた。 飲み物はコーヒー以外はここ何十年も店で頼んでいない。ホットケーキなど人生で数えるほどしか食べた事がない。 なぜ、自分はこれを頼んだのだろうか? 不思議な組み合わせに亮介は戸惑う。 「思い出してください。あなたは過去に誰かとこれを食べたことがあります」 男はそう言って去っていった。 昔ながらの喫茶店のメニューだ。 緑の鮮やかな液体にバニラアイスとさくらんぼが乗っている。 ホットケーキも小さいものが2つ重ねてあり、バターの塊がてっぺんに鎮座している。 絵に描いたような昔ながらの喫茶店のメニューだ。 だが、亮介は甘党ではない。今までこんなメニューを頼んだことはなかった。 ーほんとうに?おもいだしてー 誰かが耳元で囁いた気がした。 導かれるように亮介は思考の海に沈んでいく。 現在から過去へ、遠い記憶を辿るように少しずつ深いところへ……。 「あ、思い出した」 妻と初デートした時だ。 会社の後輩だった彼女を映画に誘い、その後、お決まりのパターンで喫茶店に行った。 田舎から就職のために出てきた彼女は喫茶店に入るのが初めてだといい、中々選べなかったのだ。 (そうだ、それで俺が……)
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