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「しおん…?」
「そ、そうっ!!覚えててくれたんだっ!」
最後のピースがぱちっとハマり、そこに現れたのは保育園時代から一緒、小学校もずっと同じクラス、ほぼ親友ポジション、時には大喧嘩もし、忠臣の転校が決まった際にもぐずぐずと泣きながら文句を言っていたこの男。
まさかこんな所で昔の友人に出くわすとは。
いや、同じ街に戻って来たのだからそれも当たり前なのかもしれないが、まさに偶然の再会と言うもの。
利桜といい、あまりの出来事に言葉を詰まらせた忠臣とは違い、志恩は嬉しそうにくしゃりと破顔させると、
「お前時間ある?俺、もうすぐここ上がりなんだけど、一緒に飯でも食わねぇ?」
「え、あぁ、いいけど、」
「よしっ、じゃちょっと待ってろよ、あ、お会計356円ね」
慌ただしく会計を済ませ、さっさと奥へと引っ込んだ志恩を半ば茫然と見送り、忠臣はお買い上げテープの張られたカップスイーツをアジフライが入っているビニール袋の中へとそっと置く。
だいぶ冷えたアジフライ、生クリームが溶けたりする心配も無いだろう。
志恩と入れ替わりに入って来たコンビニ店員。
どうやら本当に交代の時間らしい。
コンビニを出て取り合えず外に設置してあるベンチに座っていれば、これまたドタドタと身支度を整えた志恩が笑顔で裏口から。
「お待たせぇっ」
「おー」
久々すぎる再会に、少しの緊張があるのはどうやら忠臣だけらしく、人懐っこい笑みを浮かべ、どこ行くよ、何食べる?なんて聞いてくる志恩は始終嬉しそうだ。
(あ…)
「志恩さ、」
「何?」
「アジフライ好きか?」
「は?」
―――驚いた事に、志恩が一人暮らしするマンションは利桜の家からそう離れていない場所にあった。
セキュリティもしっかりとしたマンションに多少の驚きはあったものの、中を覗き見ればその名の通り男の一人暮らし。
リビングに通されたはいいが、ソファに投げ置かれた服にテーブルには朝食べたもであろう食パンの袋やペットボトルが転がっている。
「お、起きてからちょっと忙しくて、だな」
「だろうな」
バスタオルまでもその辺に落ちているのを見ると、さぞかし慌ただしい朝だったのだろう。
ふっと笑って見せれば、恥しそうにそれらを抱えて部屋を出る志恩は戻ってくると早速テーブルを拭き、小皿を用意。
「飯とかあんの?」
「あー…」
「……米は?」
「あるある」
「俺が炊くよ」
結局米から炊くのを始め、アジフライとは別に貰ったキャベツの千切りを大皿に乗せ、メインのフライはトースターで温め直した忠臣はふぅっと息を吐いた。
「レンチンせんの?」
「レンチンだとしなっとなるのが嫌だからさ」
アジフライはカリカリ、サクサク派だ。
ちなみにソースか醤油かと聞かれたら、最近醤油派になった忠臣。
しかも九州の甘味の強い醤油になったのは、すすめてくれた利桜の影響だったりする。
「あ、俺んちタルタルしかないけどいいよな」
「ソースが無くてタルタルがあるのが不思議だわ」
汁物も欲しいとも思ったが残念ながら出汁も無ければ、味噌も無い。インスタントとも無いとくれば、仕方ない。
そこから野郎二人、サクサクになったアジフライと炊き立ての白米を突き、少しずつ話をする事が出来た。
主に志恩に質問される事が多く、一体いつ戻って来たのか、だの、今は何をしているのか、だの、当時のクラスメイト達は覚えているのかだの。
転校当初は手紙の遣り取りをしていた二人だったが、次の転校先の引っ越し途中、手紙を無くしてしまった忠臣から連絡を取れなくなってしまっていたと言う事実。
それらが罪悪感や気まずさとして残っていた忠臣も、気にするな、と屈託なく接してくれる志恩に少しずつ、笑顔を増やしていき、思いのほか盛り上がった夕食になった。
互いに打ち解けた、そんな中夕食の片づけを終わらせ、今度はスナック菓子を片手に戻って来た志恩は忠臣の座るソファの隣に腰を下ろす。
「つか、今日普通に会えて嬉しかったわ」
「あー、だな」
「お前住んでる所も近いんだろ?」
「うん、住まわせてもらってるって感じだけど」
そう苦笑い混じりにぼそりと呟けば、志恩がぷくりと唇を尖らせた。
「んだよぉー、普通帰ったら俺とかに連絡取ろうとか思わなかった訳?俺の実家とか知ってたよなぁ」
「あー…まぁ、覚えてるけど」
「…存在自体思い出せなかったとか言う訳じゃねーよな…?」
「……もちろん」
一瞬不自然に静かになった室内がその真意を問うも、ふんっと鼻を鳴らした志恩は眉根を寄せる。
顔面が良い男はどんな顔をしてもいい男だ。
「つか、誰と住んでんの?親戚とか?」
「いや、普通に幼馴染みたいな、」
「はぁ!?何だよ、それぇー。だったら俺と一緒でもいいじゃんか」
その言葉に忠臣の眼がぐりっと見開かれる。
「何か寂しいー。俺親友ポジションだったよなぁ?それなのに、そんな俺を差し置いて幼馴染と同居とか、何だろ、寂しい気分になるわ」
「……………」
――――ほう。
それだよ、それ。
見開いた眼が途端に輝き出す忠臣はぐっと拳を握り、親指を上げる。
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