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野郎二人で一つ屋根の下。
利桜が生理的欲求があるのだから、もう片方の男に無い訳が無い。
深夜こっそりと自室で集中して短時間で終わらせる様に、打ち込む姿は見る者が見れば涙ぐましい姿である。
何故なら、彼の自慰時にお世話になるネタはこの家に住む利桜なのだから、当然と言えば当然。
好きな相手がすぐ近くに居ると言う幸福度、けれどその相手をオナネタにしなければならないと言う罪悪感。それは片思いを楽しもうなんて決意したばかりだが、忠臣の中ではちょっとしたストレスにもなるのは仕方が無い事。
しかし、まだ未成年、若さゆえの性的欲求は自身でコントロールできる程精神的にも大人でない彼は色んな意味での悶々とした時間を過ごさなければならない。
以前は利桜の後に入る風呂場で行っていたのだが、最近はこうしてベッドの中に潜り込んで致す様になった。
自室の扉の向こう側には利桜の部屋があると言うのも、悲しいかな興奮材料。
しかも、今日は風呂上りに上半身裸でリビングにやって来た利桜の最新映像もあるのだ。
更新されたものは使わないと勿体ない。
罪悪感云々の話はどうしたのかと聞かれたならば、それは賢者タイムにやって来るのであって、
(やっべぇ…気持ち良くなってきた…)
絶頂を手厚く迎える今現在は快感しか感じる事が出来ない。
ぬめりを帯びた指先で先の方がぐりっと抑え込めば、途端に迎える射精感。
ついでに後孔に浅く挿入させた指もそれを後押しする様に吐精を促し、忠臣は息を殺しながらも小さく肩を震わせた。
そうして、冷えていく熱と汚れを拭き取ったティッシュをゴミ箱へと放れば、例の如くやってきた賢者タイム。隣で寄りそうそれに、洩れる溜め息からは何も生まれないが、もっぱら不安な事と言えば、
(…後ろ使うの辞めた方がいいんだろうなぁ…)
と言うか、自慰に利桜を想像し、後ろを使う辺り、男としてのプライド云々も一度は考えてみたのだが、幼い時の刷り込みもあるのか、あの幼馴染を見るとカッコいいだとか身体つきも想像以上に筋肉もあり雄味が強いだとか、そう言った語彙力の欠乏した感想が出るのだから、これもまた至極普通の事なのかもしれないと納得してしまった故、今に至る。
「…色々完敗過ぎる…」
男としても人間としても。
ぼそっと呟けば、感じる瞼の重み。
気怠い疲労感に身を任せ、ベッドに身体を沈めた忠臣はそのままウトウトと眠りについた。
が、
突如鳴ったスマホの着信音。
ぱちっと弾けた睡魔が瞼を持ち上げ、反射的に手はスマホの方へと。
「もし、も、し…」
名前も確認せずに電話に出れば、そこから聞こえる声は聞き覚えがあるもの。
『忠臣?ごめん、寝てた?』
「……し、おん?」
『そう』
こんな深夜にいきなり電話とは。
一体何があったのかと眼を擦りながら身体を起こす忠臣に志恩の声が続く。
『何してた?』
「……寝てた」
寝てた?と問いかけた癖に何してたと問う志恩に冷静な答えを貸せば、向こうで笑う声が聞こえた。
『早くね?まだ十一時過ぎだし。しかも今日金曜日だぞ』
「金曜日関係ねーだろ…」
ふわっと出てくる欠伸も隠そうともしない忠臣にまた笑う声が聞こえるが、正直用も無いならば電話を終わらせたい。
いくら友人とは言え、離散していた睡魔がふよふよと再び集結した今、すべき事は惰眠を貪る事。
その上、自慰行為の後と言うのが相手には知られていないとは言え、何とも気恥ずかしいより上の居た堪れない感の凄まじい事と言ったら。
『今から遊べねーの?』
「断る」
それらに襲われながらも忠臣の答えは、光よりも早い。
『えぇー…つまんねぇの』
あからさまにブー垂れる志恩だが、確かによく聞けば背後が賑やかと言うか、煩いと言うか。
人の歓声にも似た声に交じり、リズム感も分からない程に響いている音楽。
どこぞに遊びに出掛け、盛り上がりに任せ他に友達も呼ぼうとなったのだろうが、明らかに人選ミスだ。
「じゃあな」
最後に挨拶だけは忘れず、通話終了のボタンに手を掛けた忠臣だが、
『ちょ、ちょっと待ってってっ!』
慌てた声音に眉根を寄せる。
「…何?」
『あ、明日、お前暇?』
―――明日…?
(明日はバイトも休み。提出レポートも今日出せたし…)
「暇、かな?」
『じゃ、明日っ!いい加減俺と遊べよなっ』
(なるほど…)
確かに連絡先を交換してから細目に連絡はするものの、未だ遊べておらず。電話の向こうでふくふくと眉間に皺を寄せて唇を尖らせる友人が容易に想像できた忠臣はぼりぼりとシャツの隙間から腹を搔きながら、頷いた。
「わかった…明日な」
『え…っ、や、約束だからなっ』
「ん…。朝起きたら連絡してよ」
『お、起きたら…わ、分かった。俺今すぐ帰って寝るわっ』
一体何時に起きる計画なのだろうか。
すぐ隣で女の子の声だろう、『えっ、帰るのっ!?』だの、『えーっ!』なんて声が聞こえたが、それらを無視するかの様な志恩の声は忠臣だけに向けられた。
『また明日、なっ』
「あー…また明日」
まるで子供の時の様だ。
保育園の時からの別れの挨拶。
ふふっと思わず笑みを洩らし、忠臣はようやっとスマホをベッド脇に置くとごろりと身体を倒した。
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