悪くは無い

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***** 泣く泣く、それこそ目から血の涙が出るのでは、くらいの勢い。 震える指はスマホの画面を破壊させてしまうかと思ったが、それでも想い人のお誘いを断ったのは友人との約束を優先した為。 それが普通だと礼儀だと思ったから、と言う前提があっての話だ。 「たっ、忠臣っ!ま、待ってっ、な、ごめんて、っ!」 自分の荷物を纏め、足早に進んで行く背中を追いかけ、その肩を掴んでみるも、振り返ったその顔に浮かぶのは嫌悪の表情。 「…何?」 「だ、だって…!!」 「金足りなかった訳?」 「違うわっ、あの、…えっと、そのごめんっ!」 忠臣の見た事も無い表情に狼狽しながらも、謝罪の口をする志恩にぎろりと双眸が釣り上がる。 「……あの子達は?置いてきたわけ?」 「えっと、あ、うん…」 「早く戻った方がいいんじゃね?」 「でも、そしたらお前帰るじゃんかよ…」 当たり前だ。 そう言わんばかりに忠臣は溜め息を吐いた。 けれど、こうなったのはこのしょんぼりと肩を落としている友人の所為。 小学生の時によく遊んだゲーセン、からの懐かしい駄菓子屋へ行き当時の店主に挨拶がてらおやつを食べ、カラオケと渡り歩き、腹も減ったしご飯でも、と、そこまでの流れは良かったのだ。 しかし何を思ったのか、どこに食べに行こうかと思案する中、どこぞに電話をした志恩はにんまり笑うと忠臣を一軒の店に案内した。 ビュッフェスタイルの女の子ウケが良さそうな店だな、と内装をぐるりと見渡し早速メニューを見ていたのだが、 「あっ、こっちこっちぃー」 不意に目の前に座っていた志恩が手を挙げヒラヒラと振り、椅子から立ち上がり忠臣の隣へと席を移動。一体何だと呆気に取られる間も無く、釣られる様に忠臣もそちらに眼をむけると二人の女の子が歩いてくる姿が見えた。 同年代であろう女の子達はきゃっきゃと楽しそうに近寄り、我が物顔で同じテーブルに腰を下ろしたのだ。 一人はショートカット、もう一人は黒髪ストレートに前髪ぱっつんの女の子二人。もれなく可愛い容姿に反射的に凝視する忠臣だが、問題はそこでは無い。 「もぉー急に連絡してきてぇ。こっちだって準備があるのにぃー」 「でも、うちらもご飯食べに行こうかぁーって話してたから丁度良かったよぉ」 「マジで?良かったわー。あ、こっちは俺の友達で忠臣って言うの」 ――いや、待て。 一体何が起こっているのか。 志恩に促され、自己紹介を始める女の子二人だが、理解が追い付かない忠臣の耳にも頭にも入らない。 あれよあれよとドリンクも頼まれ、乾杯までノンストップ。 何が何だかの中、笑顔の志恩の隣で引き攣った顔面のまま十数分。 (あー…もしかして、これって…) 「ねぇー忠臣くんて彼女居ないのぉ?本当ー?」 ショートカットの女の子の計算し尽くされたであろう小首の傾げ具合を前に確定。 行きついた答えが正解だと分かった瞬間、急に椅子から立ち上がり、忠臣は流れるような動きで机に金を置き、そそくさと店を後にした。 まさか、何も言わずに店を出て行くとは思わなかったのだろう。 眼を丸くしたイケメンの友人が眼の端に映ったが、知った事では無い。 (合コンなら他の奴とやってろ) 頼んだ訳でも無い女の子の紹介なんて、今の忠臣からしたら迷惑以外の何者でもないのだ。 そんな経緯の中、こうして追いかけて来た志恩はしゅんと頭を項垂れ謝罪をするも忠臣からしたら残してしまった女の子達の方が心配らしい。 急に呼び出され、男の子と楽しく食事が出来ると思っていた筈だ。それなのに一緒に居た男は地味な上にさっさと店を出て、呼び出した男はその男を追っかけて店を出てくるなんて、彼女達からしたら厄日にも等しい。 「さっさと戻れよ、失礼過ぎる」 「だ、だったら、忠臣も、」 「何で?」 真っ直ぐに視線を合わせ、心の奥底から意味が分からないと言った表情を見せれば、志恩からくぐもった音が聞こえる。 「あの、俺、」 「合コンしたかったんなら俺じゃないヤツにしろよ」 「いや、そうじゃなくて、」 合コンが目的ではないと言いたいのか、歯切れの悪い志恩の視線は定まらない。どこまでも落ち着きの悪い友人に忠臣は、息を吐いた。 「俺、今日はゆっくりお前と遊ぶつもりだったんだけど」 女を紹介されるとは思わなかった。 「お、俺もそのつもりだったんだけど、その…」 「何?はっきりしろよ」 拳を握りしめ、身体中に力を入れている志恩の眼が揺れる。 何か言いたい事がある、そんな視線に忠臣も身体ごと向けると、少しだけ剣呑な雰囲気を解いた。 「…だって、お前、あの人と…居るじゃんか」 「あの人?」 「…あの男だよ、お前の幼馴染…」 ぽつりぽつりとそう洩らす志恩の『あの人』と言うのが誰だ、なんて聞く前にピンと来た忠臣の眼が丸くなる。 「利桜くんの事かよ…」 利桜と一緒に居るから何だと言うのだ。 益々意味が分からない。 瞬きも忘れ、まじまじと友人を見続けるとその視線が居た堪れないのか、それとも意を決したのか、俯き加減だった顎をきゅっと引くと志恩も真っ直ぐに忠臣を見つめ返した。
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