頭痛のブルー

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利桜の思考回路がどう繋がって今の答えを生んだのかよく分からないが、出来る事はやっておきたいと思うのは惚れた側としての当たり前の事。 (詳しくは分からんが今まで見てきた女の人は皆綺麗系だったからなぁー…) 流石に大人の女性には対抗出来ないのだから、せめて近づきたい、くらいの心意気は持っておきたい。 忠臣自身子供っぽい等と言われた事は無い。 初対面の人にもバイト先にも高校生に見られる事も無い。だが、それはただ年相応と言うものなのだろう。 早速防寒もばっちりに利桜と共に街の中へと。 折角のデートだからと車で連れてこられた先で、利桜が口を開いた。 「忠臣はどんなのが好きなの?」 服の好みだろう。 高校時代の友人から貰ったマフラーに顔を埋め、うーんっと眉根を寄せる忠臣はちろっと右斜め上を見上げる。 相変わらず隣に並ぶと見上げる先が高い。 176センチは決して低い方では無いが、利桜の場合は腰が高いのだ。 つまりは足の長さと言うもの。 人間離れしている様に見えるスタイルはこの恵まれた体系と小顔が効いているのだろう。 (そういや、中学校の制服とかもお直しいらずだ、っておばさん言ってたな…) 利桜の母がニコニコとそんな事を言っていたのを思い出し、当時は何の意味だか分からなかった忠臣だが、時間を得て今更ふふっと口角を上げた。 いや、今はそんな事を思い出して浸っている場合ではない。 「…え、っと、俺に似合うのを、利桜くんが選んでくれるって言うのは、どうかな、」 「俺が?」 これが忠臣が考えた自然な流れで忠臣の好みも分かると言う、安易ではあるが決してハズレを引く事は無いコーデになる筈。 ざっくり言ってしまえば利桜の好みなんてどう逆立ちしたって分からないのだから、だったら本人に選ばせてみた、と言ったライトノベルズ風の計画なのだ。 「も、勿論予算もあるから、大型量販店とかになるんだろうけど、その中で選んでくれたらなぁー、なんて、」 「なるほどね」 浅はかかもしれないし、この真意がバレたらさぞかし気持ちの悪い事かもしれないが、これもまた一つの参考になるのだから是非実行させて頂きたい。 (それに、いい思い出になるかもだしな…) 変わらないネガティブ思考だと言うのに何処かに爪痕を残そうとする忠臣は鼻息も荒く、気合を入れてみる。 そんな彼をじぃっと見詰めていた利桜がふむっと自分の唇に指を当てた。 「忠臣さぁ、そのマフラーとかお気に入り?」 「え、いや、これ前の学校の友達がこっちに戻る時に餞別ってくれたやつだけど」 『俺らの事も忘れるなよっ!』と、その場で付けていたものをノリと勢いでくれただけの代物。 それがどうかしたのだろうかと首を傾げて見せれば、ふぅんとこれまた曖昧な相槌に忠臣は数回瞬きして見せた。 「いや、それだけ何か忠臣っぽくないな、って思ってたから」 「……へ、そ、そう?」 つまりは似合わないと言う事か。 貰った当時は知らなかったが、有名なブランド物らしいマフラーは確かに忠臣には不釣り合いだったのかもしれない。 「じゃ、マフラーは絶対変えようか」 「あー…うん、」 矢張りそうなのだ。 (壊滅的に似合ってないって事かー…) 乾いた笑いを浮かべながら、もしかしたら金が足りんかもしれんと心配する忠臣に、ふふっと聞こえたのは笑う声だ。 「大体俺が恋人なんだから、他の人から貰ったマフラー付けるとか無くない?」 「――――………あ、あぁ、はい、はい」 見上げた先にある色素の薄い眼。 笑っているが、ぎくりとする何かを孕んでいる様で、忠臣の身体が強張るもなるほど、と曖昧に視線を逸らすと大きく頷いた。 「じゃ、マフラー見に行こうか」 「え」 「おいで」 無理矢理剥がされる様な事はされないが、今すぐ変更を強いられているらしい。 ぎゅっと手を握られ、半ば引っ張られて進んで行く先。 「あの、えっと、ちょ、利桜くんっ、」 人の眼等は気にならないのか、嫌でも注目を集める男がパッとしない男と手を繋いでいる。 二度見しているのは、その奇妙な二人組なのか、それとも利桜だけなのか。 流石にかぁぁっと顔を赤らめ反射的に身を捩る忠臣だが、その腕はびくともしない。 そして、あれよあれよとついた先は忠臣でも知っているブランド店。そこに勝手知ったる顔で入って行く利桜に当たり前のように声を掛ける店員に、お得意様だと言う事が見て取れた。 「あ、あの、利桜くん、流石に予算が…」 一体幾ら持っていると思っているのだ。 バイト代全額注ぎ込んだとしても不安しか無い。今日この店だけで買い物が終わってしまうと言う事態もあり得る。 宜しくない顔色で店員と利桜のやり取りを見ていた忠臣だったが、 「ありがとうございました」 恭しく店前まで出て来てお辞儀する店員を背に、後にする店をちらりともう一度一瞥。 「やっぱ似合ってるよ、忠臣」 「………ど、うも」 似合ってる、と言われたのは忠臣の首に巻かれたマフラーだ。 肌に当たる質感も、さりげなく入ったブランド名とデザイン。 どれをとっても一流と分かる。 ーーーーだが、何故に?
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