頭痛のブルー

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「やっぱ似合ってるじゃん」 「…あ、りが、とう」 何故、利桜がこのマフラーを購入してくれたのか、と言う事だ。 そう購入してくれたのは利桜。 店員と共に数枚のマフラーを試着させる中、忠臣がさりげなくチェックしたのは勿論金額。 ひっ…!と喉から出てきそうなそれに、何とか悲鳴を押さえ、身体を強張らせる中、 『これ、可愛い。忠臣っぽいし』 このままください、と自分の財布からカードを取り出した利桜に忠臣の眼がぐるりと丸くなった。 当たり前の様にそれを利用し、利桜に会計させてしまったと言うこの事実。 しかも可愛いお値段で無かった事も重々承知。 「あの、利桜くん、これさ、」 矢張り気が引ける。 買い物に行こうと誘った手前、強請っていたと思われているのかもしれない。 きちんと分割でも支払いを申し出よう。 ――自分で買い取るよ、と見上げた瞬間。 「恋人になってから初めてのプレゼントって事で、今度からそれ使って。古いのはもう捨ててもいいんじゃない?」 ばち、っと合った視線。 無機質な綺麗な石の様なその眼に映る自分に忠臣の息が詰まる。 「う、ん、ありがと、」 だからこそ、何も言えずにただ口にしたのは礼のみ。 捨てる云々に対しても言及はせず、再び握られた手をぎゅっと掴み返せば、ニコッと微笑んだ利桜に引っ張られてしまった。 「じゃ、次は一式かぁ」 上から下までと言う事らしいが、周りを見渡してもこの辺はブランド店が多い。まさかと思うが、とこの辺で選ぼうといいのでは? たらりと汗を流す中、結局引っ張られた先にて、 『ジャケットはこれかな』 だの、 『インナーはこれで…このパンツの色味はこれだけ?』 だのとお買い上げ。 二件隣の店に移動したのかと思えば、 『足のサイズって27.5センチだっけ?』 何で知ってんの?と問う前にさっさと靴を選ばれた。これまた忠臣でも知っている有名店。 ごくりと喉が鳴る中、さくさく買い物が進んで行く。 レベル99の勇者と戦うコマンドのみでRPGやっている気分だ。このまま魔王の元までパーティーも組まずに行けそうな勢い。 もしくは三分クッキングの様な、そんな感じ。 材料を用意し、混ぜ合わせ、 『出来上がりがこちらに御座います★』 テーブル下から取り出された完成品。 それがまさしく本日の買い物となってしまった。 確かに忠臣の希望通り利桜から選んでもらった物。 しかも、それら全てが利桜から購入してもらった物。忠臣自身は一銭も出す事すら無く、財布すら触っても居ない。 両手にショッピングバッグを抱え、半ば茫然としてまま店を後にした忠臣だったが、ようやっとハッと我に返ったのかぐにぃっと首を捻じ曲げ利桜へと顔を向けた。 「いっ、いや、ダメだってっ!何これっ!!」 「は?」 スマホを眺めながら忠臣の腕を引き寄せる利桜が意味が分からないと居た声音を返すが、いやいやと首を振って見せる。 「何で、利桜くんが買うんだよっ!俺の服だから俺が買うのが当たり前じゃんっ、しかも、全部ブランド品、き、金額だって、」 後から請求されたら、相当キツイ。 スマホから顔を上げ、一瞥した利桜はその血の気の引いた忠臣の顔にふっと眼を細めるも、その笑い方には何やら意味合いがある様で恐ろしさすら感じてしまう。 「いいよ、全部俺からって事で」 「俺から、って…」 これが全てプレゼントだと言うのだろうか。 これが本当に自分に似合う服なのか。 絶対に着せられた感が滲み出るであろう自信がある。 それとも、本当にこれが利桜の『理想』とでも言うのか。 色々と脳内を探り、そう言えば、と出て来た有名な男の行動が思い出された。 ――なんでも男が服をプレゼントすると言う事は、それを脱がせたいと言う願望がある、らしい。 残念ながら恋愛経験値が著しく低い忠臣にその論理が通用するのかと聞かれたら否ではあるが、利桜くらい慣れている男ならばそれもあるかもしれない。 (いや、でも、な…) それと同時にもう一つ。 あまりに自分に不釣り合いだと思ったらしく、服を買って着せられた、と文句を言っていたクラスメイトが居たな、と。 (後者…っぽい、よな…) でもそれならば、あの店でそのまま着せられそうな物では? 色々と考えればキリがないのは分かってはいるが、考えないわけにもいかないのが、性というもの。 むぅぅぅぅと眉間に皺を寄せ、ブラックホールでも作るかの勢いになる頃、 「飯、食おうか」 「え?」 「予約取れたし、行こう」 スマホを閉じ、自分の上着のポケットに突っ込んだ利桜から差し出された手に今度は自分から吸い寄せられた忠臣の手。 人の眼は未だに慣れないものの、他人はそこまで人を見ていないと言う利桜に流されてしまった。 「あの、ありがとう、大事にする」 歩きながら、素直にそう洩らせば、笑う利桜の声が心地良い。 「そう言えば、昔もそうやって俺の服着せた事あったよな」 「え、あ、あぁ、小さい頃」 幼い頃の記憶を探り出す。 そうだーーー。 あの頃、利桜のお下がりを貰い、着せてもらった事があった。 忠臣に似合う物をと、引っ張り出された服を並べ利桜は真剣に選んでいた懐かしい思い出。 (あー…そ、っか) それの延長戦なのかもしれない。
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