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二度目があるとも限らない中、不安材料になる事は避けておきたい。
利桜が面倒臭い、不便だと感じたら元も子もないのだから。
水を一気に煽り、息を吐く中、
(あ…)
眼に止まったのは、テーブルにあるパンとスープの素の入ったカップ。
どうやら忠臣の朝食らしい。
用意してくれたのは当たり前に利桜なのだろうが、その優しさにじわりと胸元が熱くなる。
(そう言えば、ずっと心配してくれたもんな)
朝、目覚めた忠臣が居たのは利桜の部屋。
見慣れない天井に、一瞬何処に居るのかと今まで生きていた中で一番早く数多く瞬きしてしまった忠臣だが、はっと昨夜の事を思い出すと隣で寝ている利桜を起こさぬ様にと這いずって自室に戻って来た。しかし、五分も経たずにどたどたと足音と勢いよく開いた扉と、同時に聞こえた声。
『ただおみっ!!』
険しい顔つきで部屋へと飛び込んできた利桜に眼を丸くさせた忠臣だが、そこからがまた驚愕の連続だった。
『身体は大丈夫?』
『て言うか、何で俺の部屋出て行った訳?』
『ヨロヨロだな…今日はゆっくりしておくといいよ』
『学校には俺から連絡するから、そのまま寝てなよ』
『は?学校行く?何言ってんの、今日は黙って俺の言う事聞いといてよ』
結局何一つ反論する言葉は出せる事も無く、ただひたすら頷くだけの忠臣ではあったものの、そこから発せられる心配している雰囲気は感じられ、正直言ってしまえば非常に有難いと思えるもの。
しかも、会社に行く前も部屋まで上がってくれ、行ってきます、とキスまでくれたのだ。
「………………う…わ…」
今思い出しても、歓喜で震えそうになる。
けれども、昨日やってしまった事はそれ以上。
ホテルでは無く、結局この家で致してしまったと言う事実。
汚れても大丈夫なように自分の部屋にと誘導しようとした忠臣に、何も言わず笑顔で利桜の部屋へと連れていかれ、あれよあれよと言う間に――。
温かいコーヒーを用意。
スープにお湯を入れ、椅子に腰を下ろすと用意してあったパンを齧る。
(…う、まぁ…)
売り切れになると話題のバターロールは昨日利桜が購入していたもの。
焼かずとも美味しく頂けると言っていたがまさしくその通り。
用意されていた三つ分をぺろりと平らげ、スープも一気飲みした忠臣は、ようやっと腹が満たされ、ふぅっと椅子の背凭れに体重を預けた。
(いやー…、しかし…)
――――マジでヤったわ…俺…
しかも、絶対にありえないと思っていた相手、利桜となんて。
思い出してしまうのは、最初のキスだろう。
右手右足が同時に出る位に緊張していた忠臣にくすくすと笑う利桜からのキスは驚く程軽く柔らかいものだった。
今迄してきた彼女達とは違うそれ。
あまりの気持ち良さにそれだけで色んな意味で昇天しそうになったが、そこからも利桜も男相手が初めてだと思えなくらいに手際良く、二度も先に忠臣を気持ち良くさせてくれた。
自分も何かしたいと思っただけで、結局利桜に全て任せてしまったのも今更悔やまれる。
(でもさ…)
マジでメロメロにされたのだから、これは仕方ない。
青年向けの漫画だったなら眼はハートになっていたのでは。
綺麗で出来る男は同じ男でも気持ち良くさせれる――。
たった一晩だがつくづくそれを思い知らされた。
尤も、後ろの方は一応自分で弄っていたのもあり、さほど利桜の手を煩わせる事もなかっただろう。そこだけは安堵してもいい筈。
が、しかし、だ。
勿論不安は取り除きたいが、無い訳では無い。
一度やってみたからと言って、そこからが問題。
(やっぱ女がいいとか、再認識したとかだったら切ねーよなぁ…)
結局は同じ男の身体。
柔らかさも丸みもほぼ無いに等しい。
むしろ、固い、ごつい、やり辛いの三重苦だったのでは?
利桜は優しいから、それをはっきり言ってこないのでは?
「まぁ…小さい頃から面倒みてた男とヤるとか、想像はしてなかった筈だよなぁ…」
忠臣だって想像していなかったのだし。
ゴムも用意して、驚くべき事に新品のローションまであったけれど、今回の事を後悔なんかしていないだろうか。
後悔はしてもいいけれど、それでも、謝って欲しくはないと思てしまう。
勝手な忠臣だけの考えだが、もしこれ一回きりの事になってしまうのならば、誤りとかではなく、いい思い出にしたいのだ。
そこまでうだうだと考える忠臣のスマホがテーブルで震えた。
「…あ?」
表示されたのは利桜の名前。
がばっと腰にダイレクトに来る痛みを我慢しつつ、スマホのパスワードを開き確認すれば、
【体調はどう?晩御飯は俺が作るけど、食べたいものある?】
どこまでも優しいメッセージに自然と目頭が熱くなる。
だが、返事を待っているであろう利桜に返信は驚く程素早い。
【全然大丈夫。何でも食べれるし、朝飯もありがと】
そう打ち込み送信すると、すぐに付いた既読の文字に繋がりも感じ取れ、覚えるは気持ちの悪い感動だ。
【いいよ。じゃ適当に買って帰るから】
【うん、気を付けて】
たったこれだけなのに、セックスよりも恋人らしさを感じてしまうのは忠臣だけなのだろう。
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