頭痛のブルー

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はっきりと明言してしまえば、忠臣は童貞ではない。 高校生時代に彼女との行為は済み。 挿れたい、出したい、やり尽くしたい、と言う訳でも無かったものの、それなりの興味と好奇心、知識でこなしていたと思っていたのだが。 今なら思う。 (ぜってー俺とのセックスってつまらなかっただろうな…) ――――と。 何故そんな自虐的な事を今になってしみじみ思うのか、それもこれも全てがこの男の所為なのだろう。 「忠臣、腕俺の首に回して」 「ま、って、っ、ん、うぅ…」 「はは、息吐かないと」 そろりと腹から撫でられる指が後孔をそろりと撫でられただけで息が詰まりそうになる忠臣とは違い、しっかりと顔を覗き込み、こちらの様子を観察するかの様に眼を細めている利桜。 もう此処から差が出ているとか笑うしかない。 いや、勿論笑える余裕なんてある筈も無く、ただ呼吸をする事だけに集中するのみ。 つい気を抜くと、うっかり気持ちの悪い声が出そうになるのも抑えなければならない。 (それも、これ、も…っ) 利桜から触れられる全てが気持ち良くて仕方が無いから。 見た目もスタイルも良ければ、男相手にこちらも上手いなんて本来ならば恨み妬みの対象になるのだろうが、完璧過ぎてそれら全て滑稽に見えてしまう。 しかも、好意を抱いている忠臣ならば尚更と言うもので、潤む眼から見える利桜は普段以上にキラキラと見えるのだからタチが悪い。 「うっ、んん、」 指が増やされたのが分かり、益々固く眼を瞑り、唇を噛み締める。 幻滅されない為には取り敢えず、嫌われない事から。 キス一つで腰砕けどころか、文字通りの骨抜き状態にされるのだ。 もっと利桜を楽しませる様にしたいのは山々だが勉強不足と経験不足が災いしている。 ならば利桜を不快にさせない為に出来る事と言ったら、出来るだけじっとしている事。余計な事をせずに男の喘ぎ声なんて聴かせぬ様に。 二度目は無いかもなんて思っていただけにその思いは尚更強い。 利桜との初体験時は、はっきり言ってしまえば覚えていないと言うのが正直なところ。 翻弄されて、抉られて、自分がどんな状態だったのかも分からず、確認のしようもないが今日はしっかりと後片付けまでせねば。 (そうだ…しっかり意識を保っていないと…、) ぐるりと回転する指から伝わる刺激が脇腹に痺れとなって走るのも何とか耐える忠臣はまた息を詰める。このままではまた呆気なくイってしまう。 また訳が分からなくなり、醜態を晒すのは嫌だ。 ーー何か、違う事を考えよう、と深呼吸する忠臣だが、ぞくりと感じる何かに反応するかの様に顔を上げた。 「…忠臣さぁ」 「…へ、え?」 それは忠臣の上から見下ろす利桜からの、圧。 じっと見詰める色素の薄い灰色の眼が素直に綺麗でそれだけで熱が集まる。 造り物の様だと何度思ったか知れないその顔は未だ現実味を帯びないが、それとは反対に自分の後孔に突き入れられた指ががりっと粘膜を引っ掻き、伝えようとして来る生々しい感覚とぬめりを帯びた音。 「ひ、あああ、っあ、や、ちょ、」 ぐちりと音を立て、突き立てられた指が中で開かれるのが分かる。少しひんやりとした空気を感じ、晒されたそこが恥ずかしくて堪らない。 (けど…気持ちいい…っ) あられもない声が遠慮容赦無く出るかもしれないと両手で口元を押さえようとした忠臣だが、 「ーーーっ、ああああ…ぐぅぅ…っ!」 開いた後孔に入れていた中指から中にある小さなしこりを、腰が跳ね上がる程に押され、口内で行き場を失っていた声が思いっきり出てしまった。 それと同時に白濁とした液体も忠臣のペニスから噴き上げられ、利桜の腹を汚す。 恥ずかしい、と思ったのも束の間、 「忠臣さ、今日…風呂の時慣らした?」 「…え、」 まさかの問い掛け。 一瞬動きを止め、大きく眼を見開いた忠臣だが次いでその顔を真っ赤に染めた。 流石にこの問いに『はいっ、慣らしてました、ついでに一発抜いてきたよ!!!』と言える訳も無い。 何故このタイミングでそんな事を聞いてきたのだろう。 期待していたのかと呆れられるのか、それともふしだらだと思われるのか。 決して期待していた訳じゃなんだと言い訳じみた事を言うべきだろうか。 そうだ、それくらいいいじゃないか。 期待していた訳じゃなく、これも男の本能の一部なのだから。 ほんの数秒の間で次から次へと浮かび上がる疑念と保身の言葉。 そろそろキャパオーバーを起こすのか、ふるふると忠臣の眼にたっぷりの水分の膜が張られると、空いていたもう片方の利桜の手でぐいっと顎を持ち上げられた。 「ーーっ、」 喉が引き攣られる感覚に、眉根を寄せるがそれはすぐに消えさえる。 「お前、今度から一人でするの禁止な」 「は、?」 「俺がするから、お前は何もしなくていいって話だよ」 ーーうん、意味が理解出来ない。 表情に訝し気な感情が出ていたのか、再び中から刺激を引き出され忠臣は咄嗟に掌を口元に当てるも、 「それもやめろ」 ぴしゃりと放たれた言葉にびくりと肩を揺らした。 「腕は俺の首か、肩、背中だけに回すんだよ」
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