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発熱の上に、頭が痛む。
小学校は休む事にしたが、繁忙期なのに仕事を休もうとした母に忠臣は言った。
『俺、薬飲んでちゃんと寝てるから』
焦り顔の母をいいから、大丈夫だからと追い出し、冷えピタをおでこに装着。
もそもそと布団に潜り込むと、窓から見える青空に掛かる熱い息。
今日は給食にプリンが出る筈だった。
体育も皆でドッチボールをする予定だった。
でも、少しだけ楽しみにしていたそれらが全部駄目になったのは、仕方が無い事なのだ。
母が忙しいのも同じ。
(仕事を休んでモヤモヤしてるお母さん見てるより、居ない方がマシだからいいけど…)
寝返りを打ち、眼を閉じる。
何かあったら電話をすればいいのだ。
でも、やっぱりあの水の様に透き通る様な青空が恋しい。
普段何気ないものなのに、自分が苦しい時に見える青空は別格で美しい。
元気になったら、あの下を走り回るのだ。
それまで寝ていよう。
がんがんと響く頭痛は子供には熱よりも苦痛が過ぎる。それに節々も痛んできた気がする。
そうして、半ば無理矢理に身体を休めて数時間経った頃――――。
頬に当たったひやりとした刺激に忠臣の眼がゆっくりと開かれた。
『忠臣?熱出たの?』
『………あ、れ?り、おー…くん?』
夢を見ているのだろうか。
今日は平日。
何故忠臣のこの狭いアパートに幼馴染がいるのか。
ゆっくりと瞬きを数回繰り返し、その綺麗な顔をまじまじと見つめていると忠臣の顔からすっと手が離れていく。
『熱い、ね』
『うん…』
『何か食べる?』
『…今、なんじ…?』
『もうすぐお昼。十一時半過ぎたとこ』
やっぱり夢かもしれない。
だって今日は平日。それなのに中学校に行っている筈の利桜が当たり前の様に此処に居るのはおかしい。
(でも…夢でも利桜くんに会えるとか、)
風邪も悪くないかも、なんて思ってしまった忠臣ははにかんだような笑みを浮かべるが、冷蔵庫から勝手に持ってこられたペットボトルを渡されると、ようやっと頭も覚醒したのか、ぎょっと眼を見開いた。
『え、りお、くんっ、何で?学校は?』
今更何を言っているんだと言わんばかりの表情を浮かべる利桜はきっちりと中学校の制服を着こんでいる。
『休んだ』
『えっ!!?』
『朝学校行く前にお前んとこのお母さんが俺の母さんに風邪ひいて熱出してる、って話してるの聞いたから』
『え…えぇぇぇ…』
だからと言って学校をサボる理由にならないのでは?
まだ小学生の忠臣には勝手に学校を休むなんて大罪と等しい。蒼褪めた顔色は先程よりも酷い。
だが、当の本人はケロっとしたもので鍋を抱えテーブルに置くと、お椀と蓮華をセッティング。
『調理実習で習ったんだ』
たまにこの顔に似合わないアグレッシブさにまだ幼い忠臣はついていけないと思ったりもするものの、蓋を開けられた鍋から漂ってくる食欲をそそる匂いに身体を起こした。
『おばさんも遅いんだろ?今日は俺が一緒に居るからさ』
『でも、学校…』
『いいんだよ』
自分の為に学校を休んだのかと思うと各方面に申し訳なさが生まれ、居た堪れない気持ちになる。
駄目だよ、と口を開こうとした忠臣だが、タイミングよくこちらに向けられた蓮華から香る匂いに完敗。
結局その日は利桜から至れり尽くせりの看病を受け、忠臣も途中からもういいやとそれに甘える形となった。
流石に解熱剤の座薬を挿れると言われた時には泣いて嫌がり、何とか回避も出来た。
あんなに恋しいと思ていた青空を見上げても、今この空間に居る利桜の方が嬉しくてたまらない。
(あ、れ、そう言えば…、)
もう頭痛は無い―――。
この家の洗濯物を干す場所はリビング横にあるウッドデッキの隣に設営されている。
初めて見た時からモダンな作りのサンルームは、実は忠臣の気に入っている場所の一つだ。
洗濯物を干している時に見える青空は朝から元気を分け与えてくれている様にも感じ、雨の日はそれはそれで趣がある。
ガラス戸を流れる水滴を見て干す濡れた衣類。このアンバランス加減が万人には理解出来ないであろう、忠臣の性癖にヒットしたのかもしれない。
今日も晴天。
冬の寒さと高い空は比例し、遠くにある青空は鮮やかなブルーと言うよりは滑らかで穏やかな色味が強い。
それだけで心も晴れやかな気持ちになり、さっさと洗濯物を干そうとヤル気も出ていた忠臣だったのだが、
「り、おー…くんっ、ちょ、まじやめろ、って…っ」
「だって、ここ毎日してやらないと、すぐに隠れるからさぁ」
今は非常にそんな気持ちもどろどろと溶かされ、熱に交じり合っていく。
洗濯物を干し終えた忠臣がサンルームを出ようとする前に入って来たのは利桜。
何を考えてなのか、いや、何も考えていないからこそ忠臣にキスを仕掛け、歯列を割り、口腔を散々嬲った挙句、着ていたパーカーを捲り上げるとそこに淡く色づく突起を口に含んだ。
声にならない悲鳴、を自身で体感した事に感動している場合でもない。
こんなクリアガラスの中、確かに家の周りをぐるりと併で囲われているとは言え、誰かが庭へ周りこんにちはなんてされたらただの醜態以外の何者でもないのだ。
だが、そんな危機的状況にもかかわらず、利桜と言えばそれすら楽しんでいるようにしか見えない。
あの綺麗な唇が自分の乳首を咥えている。
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