頭痛のブルー

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「だ、って、さっ、俺等実習とかもあって、Tシャツ姿になる時だってあるじゃん。着替えもするし、」 「だから、何故見られたらやばいのか、って聞いてるんだけど」 「え、ぇぇぇ…いや、そ、れは、」 当たり前だと思うのだけれど…。 尻つぼみに小さくなっていく忠臣の声からは、自信の無さが伺える。 普通、他人に情事痕等見せるべきではないのではないか。 しかも、一つ二つ、さりげない場所にあるのではない。これみよがしに、数個、しかも噛み跡は流石に露骨過ぎでは無いだろうか。 「恥ずかしい?」 「当たり前じゃん…」 むすりと唇を尖らせ、利桜の隣へと引っ張られた忠臣は拗ねた子供の様に双眸を歪ませるが、それもまた大人の男は楽しいらしい。 「だから、ここ最近ハイネックが多いと思ってたけど」 「俺は出来るだけ、利桜くんのする事に注文を付けたくなかったし…冬の間位なら誤魔化せるかな、って思ってて…」 「へぇ、そうなんだ」 ちゅっとこめかみに当てられる唇が柔らかい。 肩に腕を回され、忠臣を引き寄せる利桜の声音はどことなく弾んで聞こえる、と言うよりも明らかに笑いを含んだそれ。 優越を含んだ様に、機嫌が上昇しているのかもしれない。 (もしかして、この人分かってやってるんじゃねーよな) キスを受けながら、そう勘繰る忠臣の眉間の皺が深いものへと。 「じゃ、代わりに何ならしていい?忠臣が決めてよ」 「えっ、な、何でそうなる訳、」 「俺、癖なんだよね。跡付けるの。それが駄目なら何ならいい?」 首を傾げる利桜の困ったような笑顔も段々とあざとらしく見えてしまう。 だが、 (…癖、癖かぁ……) そう言われたら、戸惑ってしまう忠臣の素直さと言うか、利桜の事となると疑うと言う事を失念してしまうと言うか。 『何でそこで扉開けちゃうのっ!!一人でフラフラすなやっ、集団行動しろよっ!!』と総ツッコミを受けるホラー映画に出てくるヒロインの様な思考とも言える単純さ。 好きになった弱みとも言えるのだろうが、しばし思案した忠臣の結論は、こうだ。 「癖、なら仕方ないかもだけど、じゃ、もっと違うところとか、」 考え抜いた割には何の捻りも無い妥協案。 顔を赤らめ、そう至極真面目に利桜へと顔を上げると、その唇にも軽いキスが落とされた。 「違うとこって?」 「えー…それも俺が考えるの?」 今までの女性は何も言わなかったのだろうか。 デコルテや首筋、肩等にあんなに跡を付けられたら着たい服も着れなかったのでは? それとも、それも一つのステータスとして生活していたのだろうか。 余計なお世話だろうなとは思いつつ、また斜め上を見上げる忠臣に利桜からの口付けは増えていく。 このスキンシップの度合いも普通なのだろうか。 幼い時もそれなりに触れ合っていた気がするが、矢張りこの利桜のパーソナルスペースの狭さは多少躊躇してしまう。 「そろそろ決まった?」 「え、あ、あー…」 まずい、余計な考えに時間を使い過ぎてしまった。 びくりと肩を跳ね上げた忠臣に利桜が大袈裟に肩を竦め、溜め息を吐いた。 「じゃ、実習とか無い時期ならいいって事?予定表俺にも見せてよ」 「いいけど…それって手間じゃね?」 そんなに気を遣わせるのも気が引ける。 恐縮する忠臣だが、利桜の優しげに細められた眼にほわりと赤くなる頬がチョロさを物語る。 (やっぱ…) ーーーめちゃ、優し、 「その代わり、他の日は下半身重視って事で」 「え?」 「臍とか、内股とか。あ、乳首周りとかは通常通りって事で」 「……あ、う、ん」 いや、いいの、か? 思わず頷いてしまったが、それもどうなんだろうと考え直す間も無く、ガバッと持ち上げられたのはトレーナー。 「うぃ、ひ、っ」 「じゃ、始めようか」 腹から伝う様に這い上がってくる長くて細い指が忠臣の胸元を掠る。 普段の彼の頑張りが功を奏したのか、そこはいつもの様に収まっていない。 「期待してるのが可愛い」 くりっと指先で摘まれるそこに、泣きそうになりながらも目の前の肩に腕を伸ばした忠臣の耳に掠れた笑い声が聞こえた。 ***** 【今度また会えない?】 そんな志恩からのメッセージに気付いたのは、忠臣ではなく、この男。 (……ふぅん) 別に見たくて見た訳では無い。 たまたま、そう、偶然と言う名のつい、うっかりと言うもの。 明日は平日と言う事もあり、一通り楽しんだ後、後始末も終えた忠臣がぐったりとベッドに沈みながらも、震える指で何とか目覚ましのタイマーをセットしていたのだが、途中うとうとと寝落ちしてしまったのだ。 スマホを抱えたまま、すぅっと吐息を立て始めた忠臣に苦笑いを浮かべつつ、利桜はそっとそのスマホをベッド脇にあるテーブルへと移動させようとした矢先だった、それだけ。 何の躊躇いも無く、すっと指を動かしメッセージを確認する利桜はついでに履歴もチェックしていく。 特別目に留まる様な遣り取りも無いが、続けてまたメッセージが入った。 【この間の詫びも兼ねて、俺の家で鍋とかしない?】 すぐに既読が付いた為か、忠臣が起きていると思っているのだろう。 【俺と二人が嫌なら、今度は小学校の時の友達を呼ぶからさ】
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