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立て続けに入るメッセージを黙読する利桜の眼がすぅっと細くなり、しばしそれを見詰める。
他人に宛てられたメッセージを勝手に覗くも、それを咎める者もこの部屋には居ない。
聞こえたのは溜め息一つ。
そのままスマホを閉じ、テーブルにスマホを置くと、利桜はそっと忠臣の額を指で撫で付けた。
ぴくっとだけ動いた瞼をぼんやりと眺め、
「いい恋愛して欲しいと思ってるんだから、相手はちゃんと選べよ」
ふっと自虐めいた笑みを洩らした利桜はいつもの様に忠臣を背にして、ようやっと眼を閉じるのだ。
*****
(……あれ、)
夕食作りの最中。
志恩からの連絡にはて?と首を傾げた忠臣は、まじまじとメッセージのやり取りを見返す。
【えっと、会うの無理?怒ってる?鍋とか嫌?連絡欲しいんだけど…】
新規のメッセージに違和感を感じるのは何故だと遡れば、二日前に入っていたメッセージに気付いた。
会いたいと言うメッセージと鍋でもしないかと言うお誘い。
いつこのメッセージを自分が確認したのか覚えていない忠臣の違和感は拭えないものの、前回のメッセージが届いているのは夜中である事に忠臣はふぅんと唇に指を当てる。
(もしかして、俺が寝惚けて開いて忘れてた、って事か?)
日付的に利桜の部屋で寝ていた日。
疲労した身体に鞭を打ち、目覚まし時計をセットしようとしていた所までは覚えているが、その時なのかもしれない。
「って事は…そっか、やべ…」
志恩を無視してしまった事になっている。
そりゃこんな不安そうなメッセージが届く筈だ。
急いで返信せねば、と指を動かそうとした忠臣だが、あっと画面を滑らせる指を止めた。
(えー…っと、この場合って…利桜くんの許可って居る、訳?)
以前の忠臣ならば、二つ返事で快諾していたであろう、志恩との付き合い。
前の事なんて気にしなくていい、と笑顔で会いに行っただろうが、それは利桜と『こう言う関係』になる前の事。
(今は、恋人同士、って事だし…)
そう思うだけで頬が赤くなる忠臣は、一応とメッセージを送信。
返信遅くなって悪い、また連絡すると簡素なそれだが何もモーションを掛けないよりはいいだろう。
利桜が戻ったら一度お伺いを立ててみた方がいいかもしれない。
きっとあの幼馴染の事だ。
快く快諾してくれるのは分かりきっているが、それでも『それらしい事』をしてみたい。
(恋人に、そう言うの聞いて見るって言うのって、ちょっと憧れるって、言うか、)
それに、もしかしたら、
ーーー少しは妬いてくれる、とか、ある、かも…
いつも落ち着いて、余裕のある利桜がどう言う反応をしてくるのか。
幼馴染としてではなく、恋人としてーーー。
そんな反応を見てみたいと思うのは、普通の事だろう。
(帰ってきたら、聞いてみるか)
身長もそこそこ、ガタイも悪くなく平凡を地で行く男の癖に、こんな女々しい事を考えるなんて若干自分の事ながら鳥肌モノだと感じてしまうが、段々と大きくなる欲には敵わない。
恋人になれた、その次は身体も結ばれた。
次は、確かな気持ちを感じたい。
キスだとか、跡では無く、触れられないけれど、確かにそこに存在して欲しい何か。
好きだと言われたけれど、
(そう、もっと、こうなんか…)
ぐりぐりと手で何かを捏ねる仕草を一人行う忠臣だったが、その動きはピタリと止まり、見開かれた眼もじっと一点を見つめた。
「あれ…?」
不意に過った言い知れぬ、不穏。
そう言えば、あの時利桜は何と言っただろうか。
『忠臣、お前俺と付き合わない?』
『忠臣は好きな人は男だけど、男とは付き合った事無いんだろ?一度俺と付き合ってみて体験してからでもいいんじゃないかと思って』
『俺も忠臣が傷付くのは嫌だなって思うくらい、お前の事は好きだよ。だから、男と付き合うって言うのがどんなもんかくらい体験しておいたら?』
すっかり、
(…忘れてた……)
浮かれて失念していた、とでも言うべきか。
とんとん拍子に進んでいく関係、色々と気遣い彼の行動は忠臣を満たしてくれていたから。
あの時、忠臣自身も疑念を抱いていたと言うのに。
何故、そんな事を?とーーー。
(ちょっと、待てよ…あ、れー…)
思い出してしまえば、もやもやとした気持ち悪さは増殖するばかり。
忠臣の顔色はあまり宜しく無いものへと変わって行く。
(でも…俺と付き合い出して女の人とかと会ってる気配は無いし、すげー優しいし…キスだっていっぱいしてくれるし、決まり事だって利桜くんからで…)
自分好みにしたいとだって言ってくれていたではないか。
普通男相手にそんな事言わない、いくら幼い時から大事にしてくれていたとしてもーーー。
「…あれから、好きだとか、って…言われたっけ…?」
ズキリ
傷んだのは胸では無い。
(考え過ぎたか…?頭痛ぇ…)
鈍い痛みがこめかみあたりから響き、忠臣はぎゅうっと眉間に皺を寄せた。
しかし、
「……据え膳とか言うてたの、俺だけどさぁ…」
あまりに利桜が変わらず優しくしてくれるから、心配してくれるから、すっかり自分がその気にされていたようだ。
まるで本当に想いあっているような、恋人同士になれた、と。
一気に沈む気持ちは脳天ピンクカラーからブルーへと。
(……やっぱ、いい機会かも…)
友人を餌にするのは気が引ける、なんて綺麗事は今の忠臣には無いのかもしれない。
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