カレーは辛口

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カレーは辛口

あまり料理が得意では無かったが、努力を重ねた結果出来上がった筑前煮は悪く無い出来。 味噌汁も最近では、さっと作れるようになった。具のレパートリーも増え、二種類は必ず入れる。 漬物だけはパート先のスーパーで購入したものだが、前の様に前衛美術の如く繋がって切れている事も無い。 「美味しい」 「そう?良かった…」 ふっと微笑みながら筑前煮を摘まむ利桜に忠臣からは安堵の笑みが洩れる。 (伺うなら、今日…だよな…) 壺漬けをぼりぼりぼりぼり。 咀嚼し、飲み込んだ忠臣は、利桜へと声を掛けた。 「あのさ、利桜くん」 「うん?」 「志恩が、今度鍋でもしないかって連絡してきてて」 「へぇ」 淡々と進む会話にどこから出て来たのか、汗がつぅと忠臣の首筋を流れる。 「…で、行こうかと思ってるんだ。いい?」 「勿論。泊りになりそう?」 「…あー…もしかしたら、うん、そうなるかも」 「そう、俺も何か材料寄付しようか」 「あはははは…助かる、」 ―――――って、 いやいやいや、そのリアクションが正解な訳? (なんて、聞ける訳もなく、だよ…) ごろりと自室のベッドの上に転がる忠臣は半ばやけくそ気味にスマホを握りしめ、志恩へとメッセージを送信。 【いつでもいい、そっちに会わせるよ。二人でも全然俺は大丈夫】 送信されるのを見届けると、はぁーっと布団の上に突っ伏す。何の味もしなくなった苦痛でしかない夕食を終えた今、気分は最悪だ。 利桜にも体調が優れないと告げ、何か言われる前にと部屋へと閉じこもっている状態だが、何とも渋いモヤモヤは本当に気分を宜しくないものへと悪化させていく。 「…全然、普通じゃん」 ヤキモチなんて欠片も見当たらなかった利桜の反応。 むしろ、土産まで用意してやるなんて言われ、忠臣はあの場でちゃんと笑えていたか心配になるレベルでショックを受けていたりする。 「……やっぱ…幼馴染以上にはなれねーって事…?」 だが、そんな感情で男を抱けたりするものだろうか。 (……まぁ…人それぞれ、って事だろうな) 忠臣にはそんな事出来ないだろうが、利桜は出来る。ただそれだけの事かもしれない。 「経験させて貰えた、って事なのかよ…」 わー、有難い、いい経験させて貰えたわー。 これでここから先何があっても対応できるぜっっ。 なんて言える程強い心臓を持ち合わせていない。 いや、分かる。 想い人と恋人と言う関係性を持て、本当に愛されている様な優しい態度に、その上セックスまで出来ている。それがまた酷く心地よくて気持ちいいと言う、手放しで喜んでもいい目に合っていると言うのは、重々承知しているつもりだ。 きっと利桜は忠臣が男を好きになっていると言う事実を前提に、相手をしてくれてただけに過ぎないだろう。 あくまでも幼馴染が変んな男に騙されない様に、こうした行為に慣れさせておこうと思ったのかもしれない。 もしくは、やっぱり男同士なんて無理、同性とか有り得ない、と忠臣が思うかもしれないと―――。 (やばい…ネガティブな事しか考えつかねー…) 本当に体調が悪くなってきたかもしれない。 込み上げてくる吐き気に身体を丸めた忠臣は落ち着こうとすべく、深く息を吸い込み吐く。 何度かそれを繰り返し、ようやっと気持ちの悪さが薄まった頃、頭の脇の置いていたスマホが震えた。 【ありがとう、じゃ、今度の土曜とかどう?やばい、楽しみ、泊まれる?】 【了解、よろしくー】 志恩の返事からは純粋に楽しそうな雰囲気が伝わり、忠臣も釣られてくすりと表情筋が緩む。 こう言った時にはこんな優しさに触れると有難いやら少し落ち着くと言うか。 何だかんだ一番の友人だった志恩の存在は未だ癒されると言う事だ。 (そう言えば、志恩って利桜くん苦手って言ってたよな…) 今セックスまでしてる、なんて言ったらどんなリアクションを貰えるだろうか。 やばい、笑えるかもーー。 でも、利桜はただ優しさだけで、好きでも何でも無いかもしれないけどさー、なんて。 「………ははは」 とうとう自虐ネタに走り出した忠臣はもう止まらないのかもしれない。 ***** 社会人は大変な事だらけだ。 やりたくもない仕事をし、失敗すれば胃が潰れんばかりに辟易し、覚えのない理不尽を豪速球で投げつけられ、打ち返す訳にもいかないのだから下げたくも無い頭を下げる。 しかし、どれもこれも対価を貰っているのだから、生きる為、己のプライドなんて無視して受け入れるしか無いのが一番辛いのかもしれない。 (ーーーーと、思ってたけど、さ…) 「…って、聞いてる?佐野」 「はい、聞いてたんですけど…もう一回いいっすか…」 「だから、お前って恋人のおっさんの行動範囲って何処まで把握してんの?」 「把握って…、た、例えば、」 「交友関係とか、あとはスマホ管理とか。許容してるのは何処まで?ゲイは友人だからって同性関係気にならねーの?」 「…………えー…何の質問すか、それ…」 楽しみなランチの時間に先輩社員からの妙な質問攻撃が最近では一番不可解でどう反応していいか分からない。
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